「基督教認同運動」(メモ)

承前*1

孫隆基「基督教認同運動」『南方人物週刊』2008年2月1日号、p.96


米国において「認同政治(identity politics)」はマイノリティのものとされてきた。しかし、白人の中でも「社会地位與知識水平均属低下者」は現代世界において「辺縁化」にさらされており、「他們生活在自己建構的”現実”裏、対現代世界充満仇恨」なので、アイデンティティ・ポリティクスが見られる。例えば「基督教認同運動(Christian Identity)」。
基督教認同運動はネオナチ分子の大部分を含む。孫氏が挙げているのは、


Aryan Nations
Church of Jesus Christ-Christian
Mission To Israel
Yahweh's Truth
Kingdom Identity Ministries
White Separatist Banner


といった団体である。
基督教認同運動は特異な旧約聖書解釈に依拠しているが、「単種系説(single seedline)」と「双種系説(double seedline)」に分かれる。前者の主張は、イスラエル十二支族のうち、紀元前721年に北イスラエル王国が滅亡した際に各地にディアスポラした10支族が欧米人の先祖であり、現在のユダヤ人は南方の「猶達王国(Kingdom of Judah)」からやってきた2支族である。さらに、ユダヤ人はヤコブの兄エサウの子孫であり、エサウと異邦人の女が交わってできた「雑種」であるか、または9世紀にユダヤ教を国教としたカザール人の子孫であるというもの。つまり、自分たちこそが〈真のイスラエル人〉であるが故に現実のユダヤ人を排斥するということになる。後者の主張では、アダムとイヴ以前に(黒人などの先祖である)「與動物同級的低劣民族」が存在しており、さらにイヴは蛇に誘惑され、悪魔とセックスし、カインを生んだ。カインと「非亜当族類」との「交配」の結果がユダヤ人である。
「基督教認同分子」は悪魔の末裔たるユダヤ人が陰謀を廻らし、今や全世界的に勝利しつつあり、米国政府は既にZionist Occupied Governmentとなってしまっていると信じている。
孫氏は(米国ではなくて)南アフリカアパルトヘイト主義者の残党であるIsrael Identityという組織が2002年に一連のテロ活動を行ったことを記しているが、これと米国の「基督教認同運動」の関係はわからない。南アフリカアパルトヘイトは阿蘭陀系のカルヴィニズムの影響が強いので、別に考察する必要があるか。
また、少数のネオナチ分子は、基督教はそもそもユダヤの産品であり、ユダヤ人と「オーセンティックなイスラエル」を争う必要なしとして、基督教を捨てるに至っている。しかし、この連中にしても、(ユダヤ的な)「選民」観念、終末論的な歴史観にどっぷりと浸かっていることはいうまでもない。
孫氏によれば、「基督教認同運動」の起源は17世紀に英国で発生したBritish Israelismであり、これは1884年に米国に伝えられた。
孫氏は、「即使在世俗化了的文化表層底下、”選民論”是否植於西方文化意識的深層、値得我們去探討、它到底與東亜的儒道佛精神是十分不同的」と結んでいるのだが、それはともかく巷に溢れる「陰謀理論」や反ユダヤ主義が(主観的には反米でありながら)本場米国の劣化コピーであることは留意すべきだろう。
孫隆基氏は台湾の「中正大学歴史系教授」。