「「ケータイ小説」がベスト3独占」

Skeltia_vergberさん*1に教えていただく。
『読売』の記事なり;


ケータイ小説」がベスト3独占、07年文芸部門
 2007年の書籍の年間ベストセラー(トーハン調べ)が4日発表され、女子中高生に愛読されている「ケータイ小説」が文芸部門のベスト3を独占、ベスト10では5作がランクインした。

 文芸書が売れない中、“素人”が書いた小説が次々とミリオンセラーになる現状は、出版界に大きな衝撃を与えている。

 集計期間は昨年12月から今年11月。1位は上下巻で累計200万部の美嘉著「恋空」(スターツ出版)。この作品は映画化され、公開1か月で240万人を動員する大ヒットとなっている。2位、3位には上下巻で計100万部のメイ著「赤い糸」(ゴマブックス)、美嘉著「君空」(スターツ出版)だった。

 「ケータイ小説」は、携帯電話やパソコンのサイト上に横書きで発表される小説。5年ほど前に登場し、「魔法のiランド」など投稿サイトに、主に10代〜20代の女性らが「妊娠」「恋人の死」など実体験をもとにした物語を発表。その中の人気作品が書籍化され、同世代の読者の心をつかんできた。

 純文学の関係者からは、文章がつたなくストーリーも型にはまりがちと見られ、異端視されてきたが、出版界もその動向を注視せざるをえない存在となりつつある。7日発売の老舗文芸誌「文学界」1月号は、「ケータイ小説は『作家』を殺すか」と題して大手文芸誌初のケータイ小説特集を組み、文学への影響を分析。

 同誌編集部は、「文学は時代を反映するという意味では、文芸誌もケータイ小説を無視できない」と説明する。

 次の作家を発掘しようという動きも盛んで、昨年、スターツ出版などが「日本ケータイ小説大賞」を創設。ゴマブックスオリコンも今月、サイトを新設し、賞金1000万円の「おりおん☆ケータイ小説大賞」を始めた。

 「赤い糸」の著者、メイさんは「ほかの人の作品を読んで何となく書き始めたので、作家志望だったわけではない。文章は自分でも稚拙と思うけど、飾らないところが読者に共感してもらえているのでは」と語る。

 インターネットや情報社会に詳しい国際大学グローバルコミュニケーションセンター研究員の鈴木謙介さん(31)は「ケータイ小説はコンビニなどこれまで本を売る仕組みの中になかったルートを開拓して売り上げを伸ばした。来年以降、出版界も新しい出版のあり方を見直していくことになるのでは」と話している。

          ◇

 総合ランク1位は、10月に200万部を超えた坂東眞理子著「女性の品格」(PHP研究所)、2位は田村裕著「ホームレス中学生」(ワニブックス)、3位は渡辺淳一著「鈍感力」(集英社)。「恋空」は10位だった。

(2007年12月4日16時3分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20071204it09.htm

ケータイ小説」については知らない。だから「ケータイ小説」について云々するのは慎まなければならない。ただ、記事を読んで気になったことを幾つか記す。
「5年ほど前に登場し、「魔法のiランド」など投稿サイトに、主に10代〜20代の女性らが「妊娠」「恋人の死」など実体験をもとにした物語を発表」とある。また、記事の冒頭で、「女子中高生に愛読されている」という形容がある。作者も読者もジェンダー的に偏っているということでいいのかしら。さて、女性が読む本としてステレオタイプ的に語られるものとして、所謂〈ロマンス小説〉というのがあったのではないかと思う。ハーレクイン・ロマンスとかシルエット・ロマンスとか。それらは例えばリゾートのようなエキゾティックな時空でのアヴァンチュールといった、こういうことがあればいいなという〈夢を見させてもらう〉系と言っていいだろう。また、主に男性が読むであろうフランス書院等々のポルノ小説も基本的にはこういうことがしたい(されたい)という〈夢を見させてもらう〉系といえる。しかし、この記事を読む限り、「実体験をもとにした」、それもトラウマを刺戟するというか、疼く虫歯をいじるような内容であるらしい。このような変容というのは考察するに値するだろう。また、末木文美士氏がYOSHIの『DEEP LOVE』に強烈に反応して絶賛していたのを思い出した(『仏教vs.倫理』、pp.148-150)。
仏教vs.倫理 (ちくま新書)

仏教vs.倫理 (ちくま新書)


「飾らないところが読者に共感してもらえているのでは」と作者が語っている。しかし、「飾らない」文を紡ぐのがいちばん難しい。大概は(自分でも呆れる程)100円ショップ的なアクセサリーで覆われてしまうのだ。
〈ロマンス小説〉とかに言及して、その原型を辿ると、例えばフランソワーズ・サガンとかに行き着くのではないかと思った。かつては新潮文庫から出ていたサガンの小説は今は殆ど絶版?
さて、『読売』にて、多田道太郎氏が死去したことを知る;

仏文学から現代風俗まで論評、多田道太郎さん死去


 仏文学者で、日本文化、現代風俗など領域を超えて研究した京都大名誉教授の多田道太郎(ただ・みちたろう)さんが、2日死去した。83歳だった。告別式は近親者で営む。

 京都市生まれ。仏文学者の桑原武夫氏率いる京都大人文科学研究所で、詩人ボードレールらの共同研究に取り組んだ。雑誌「思想の科学」の編集にも携わり、1976年に結成した「現代風俗研究会」では、それまでほとんど研究の対象にならなかったファッション、旅行、テレビ、漫画などの風俗現象を通して、社会の深層を読み解くなど、知的好奇心と遊び心に満ちた評論活動を展開した。

 78年、共編の「クラウン仏和辞典」で毎日出版文化賞、99年、「放火」をキーワードに古今の文学作品を分析した「変身 放火論」で伊藤整文学賞、2004年に京都府文化賞特別功労賞を受賞。他の著書に「複製芸術論」「しぐさの日本文化」「遊びと日本人」など。「道草」の号で俳句もたしなんだ。

(2007年12月4日20時35分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20071204ij21.htm

多田氏の本では、『しぐさの日本文化』、『遊びと日本人』、『物くさ太郎の空想力』といった軽めのエッセイ類は読んだが、理論的な主著であろう『複製芸術論』はまだ読んでいない。鶴見俊輔と並ぶ戦後日本の代表的な文化理論家として、例えばCS方面からの再評価或いは再検討がなされてもいいのではないか。

しぐさの日本文化 (角川文庫 白 254-1)

しぐさの日本文化 (角川文庫 白 254-1)

遊びと日本人 (角川文庫)

遊びと日本人 (角川文庫)

物くさ太郎の空想力 (1980年) (角川文庫)

物くさ太郎の空想力 (1980年) (角川文庫)