検察ストーリー

公判が始まったというニュースなので、事件そのものはけっこう前に起こったことになるが、知らなかった。
先ずは『読売』の記事;


西武新宿線爆破計画」検察側の主張、寺沢被告が否認

9月10日14時7分配信 読売新聞
 薬局などで購入した化学薬品を調合して爆発物を製造したなどとして、爆発物取締罰則違反の罪に問われた東京都東久留米市、無職寺沢善博被告(38)の初公判が10日、東京地裁であった。

 寺沢被告は「(爆発物を)持っていたのは事実だが、人の身体や財産を害するつもりはなかった」と述べ、殺傷目的について起訴事実を否認した。

 一方、検察側は冒頭陳述で、「三つのアルバイト先を解雇された寺沢被告が、仕事がある人をねたみ、通勤ラッシュ時に西武新宿線の急行などの電車内で爆弾を爆発させて、多くの人を殺傷しようと考えていた」などと主張した。

 検察側はまた、寺沢被告が今年4月、インターネットで「TATP」(トリアセトン・トリパーオキサイド)と呼ばれる爆発物がロンドンでの自爆テロに使われた記事を読んだのがきっかけで、TATPを鉄パイプに詰めた爆弾を作ろうとしたとも指摘した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070910-00000405-yom-soci

次いで、『産経』;

西武線で爆弾テロ狙う ダイナマイト並みの爆薬原料も保有

9月10日12時18分配信 産経新聞
 インターネット通販などで購入した薬品で爆発物を製造、所持したとして、爆発物取締罰則違反容疑で警視庁公安部に逮捕、起訴された男が「職のある人を狙い、西武新宿線の電車内で爆弾テロを起こそうと思った」と供述していたことが、分かった。10日午前、東京地裁で開かれた初公判で検察側が冒頭陳述で明らかにした。男は、1995年の米オクラホマシティーの連邦ビル爆破テロ事件で使われ、ダイナマイト並みの破壊力がある「ANFO爆薬」の原料を保有していたことも新たに判明した。
 男は東京都東久留米市柳窪、元会社員、寺沢善博被告(38)。今年4〜5月にかけ、ネット通販や薬局で購入した化学剤アセトン500ミリリットルなどを使い、爆発物「TATP」(トリアセトントリパーオキサイド)約100グラムを製造、所持していた。TATPは海外で自爆テロなどに使われている。
 公安部の調べに、寺沢被告は「電車内で自爆テロを起こすため、ネットで製造方法を学び、爆発物を作った」と供述。都内の国立大を卒業後、専攻した暗号学を生かそうとして通信会社に就職したが、人間関係が合わずに退職。スーパーや登録した人材派遣会社の紹介で職を転々としたが、長続きせず、社会に不満を抱き始めた。
 寺沢被告は「朝の通勤ラッシュ時、自宅の最寄り駅の西武新宿線鷺ノ宮駅から高田馬場駅の間で爆発させ、職のある人を巻き添えにしようと思った」とも供述した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070910-00000918-san-soci

次いで、時事通信

列車内で「自爆テロ」計画=自宅爆弾製造の元会社員−検察側が冒陳で・東京地裁

9月10日12時1分配信 時事通信
 自宅で爆弾を製造、所持したとして、爆発物取締罰則違反罪に問われた元会社員寺沢善博被告(38)の初公判が10日、東京地裁(半田靖史裁判長)であり、検察側は冒頭陳述で、寺沢被告が通勤ラッシュ時の電車内に爆弾を持ち込み爆発させる「自爆テロ」を計画していたことを明らかにした。
 冒頭陳述によると、寺沢被告は今年3月以降、就職するたびに解雇されたことへの不満から、有職者への強いねたみと絶望感を抱くようになった。
 このため4月、2005年のロンドン同時自爆テロ事件に関する記事を読んだことをきっかけに、爆弾の製造を計画。西武新宿線の朝の通勤ラッシュ時に、準急か急行列車内に持ち込み、鷺ノ宮−高田馬場間で爆発させて通勤客を巻き添えに自分も死のうと考えた。
 寺沢被告は4月から5月にかけ、薬局で原料を購入し、ロンドン事件で使われた爆発物「TATP」を自宅で調合。爆発実験も実施した。さらに爆弾用の鉄パイプやリード線なども用意していたが、6月に警視庁の家宅捜索を受けて逮捕され、自爆テロは未遂に終わった。 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070910-00000056-jij-soci

3つ並べてみると、『産経』と時事は「検察側」の「冒頭陳述」のみに言及している。それに対して、『読売』は被告による起訴状否認に言及している*1。もし、『読売』の記事を読まなければ、私は「検察側」のストーリー*2を真に受けて、「自爆テロ」「未遂」を非難するか、逆に〈ワーキング・プアの英雄〉を賞賛しているところだった。検察に対抗する被告(弁護)側のストーリーはこれからの法廷で開陳されていくのだろう。もし、「自爆テロ」「未遂」というストーリーが検察側の全くの創作だとしたら、検察は格差が固定化する閉塞した〈平和〉をぶち破って流動化させよという〈戦争待望論〉への賛否が議論されている時節を読み、自らのストーリーの信憑性を確保しようとしているのだといえる。私だって、ふむふむと頷いてしまったのだから*3
最初、Mixi時事通信の記事を読み、「自爆テロ」計画を前提として、気持ちはわかるけれどそもそも標的を間違えているんじゃないか云々と書こうと思ったのだが、『読売』の記事を読んで、やめた。私たちの前には、それなりに私たちを頷かせてしまうような検察のストーリーと「(爆発物を)持っていたのは事実だが、人の身体や財産を害するつもりはなかった」という(今の段階では)不可解な被告側の物語(の一端)という1.5個のストーリーなのだ。

*1:引用はしなかったが、『毎日』も言及している。

*2:警察に「供述」しているということなので、正確には警察・検察ストーリーというべきか。

*3:勿論、これが検察による捏造であると断言しているわけではない。