山谷/カオサン

安原宏美さんのところ*1から『東京ゲストハウスLife―270軒以上の路線別物件ガイド付き!! 』(山と渓谷社)という本の孫引き;


 上野や浅草にも歩いていける東京の下町に世界各国の旅人が集まるゲストハウス街がある。日雇い労働者として知られるディープ空間「山谷」。「山谷」は今変わりつつある。
 最近、ここ山谷に「カオサン化現象」が起こっているという。
 カオサンはタイの首都。バンコクにあるバックパッカーの聖地。
 なんでも山谷の一部の宿が外国人旅行者や一般旅行者にも開放をはじめ夏休みなど旅行シーズンともなると街には外国人旅行者があふれているから驚きだ。ラウンジではフランスからの旅行者が六本木の地図を広げて明日の行く先を検討中。備え付けのパソコンでカタカタとメールを打つ中国人。そしてそれを「速いねー」と感心して眺める初老の女性。彼女は長期滞在者で「この前、アメリカ人の女の子とお風呂でいっしょになってねー」と嬉しそうに話す。ここには世代と国境を越えた新しい世界ができあがっているようだ。
 それにしても山谷の町を外国人旅行者はどう思うんだろう?ご主人に聞いてみると「驚く人もいるけれど、ほとんどの人は気にしないよ。逆に労働者の中には親切な人も多いから、道案内してもらって喜んだりね。ラウンジで話して仲良くなっちゃうこともあるよ」
 正直最初はとまどったりもしたけれど、じつは女性がひとりで歩いていても安全な、犯罪の少ない街でもあるのだ。
 そもそもなぜ山谷に外国人旅行者が集まっているのか。平成の不況に労働者は減り、高齢化もすすむ。ピーク時には約1万5000人いたとされる宿泊客も、いまや5000人に減少した。そこで一部の宿のオーナーたちはこれからは労働者だけではなく、一般の旅行者にも宿を開放することを考え、リニューアルを行った。そして2002年日韓ワールドカップ共催の年だ。これを機にその流れは進み、世界中のサッカーファンの間に噂がかけめぐる。「東京の南千住にとても安い宿があるらしい…」。六本木などの都心や成田空港にもアクセスがいいのも手伝って山谷のゲストハウスはどんどん人気を集めるようになった。
 宿のオーナーたちと力を合わせて山谷地区に一般の旅行者を呼び込む運動に力を注いでいる。
 「今、山谷からsan'yaを目指しているんです」
 山谷は過去に労働者の暴動事件や犯罪などもあり、暗い側面も多い。san'yaのアルファベット表記にはそんなイメージを払拭し、いろんな人に泊まってもらおうという思いがこめられている。浅草や上野も近く、歴史的名所や天ぷらの「伊勢屋」、桜なべの「中江」など江戸時代から続くグルメな店も多い。そういった情報もどんどん紹介していこうと山谷エリアのイラストマップを作ったりとボランティアの人も巻き込んでさまざまな工夫をしている。山谷のカオサン化はこうした宿のオーナーたちの地道な努力も後押ししているのだ。
また、安原さんの

確実に下の階層も細分化されています。
 ゲストハウスに住める人もいれば、漫喫難民もいれば、24時間営業になったマック難民まで…。そしてホームレス。そしてきっと最後が刑務所。きれいな民間の大型PFIが用意されています。民間の刑務所にとっては受刑者はお客様です。その報道を見ましたがとってもきれいです。漫喫の1畳の部屋で寝るよりはちょっとした犯罪でもいいから実刑を受けて刑務所で飼ってくれればいいと思う人がいてもおかしくないと私は思います。
というコメントもメモしておく。
ところで、「カオサン化」されたコスモポリタンな空間の帰趨は、(自分は所謂グローバル化の外部に位置していると思い込んでいる)〈田舎者〉の眼差し(及びそれを煽動するメディアの眼差し)にかかっているようにも思われる。東京の新たな国内観光スポットになるのか。或いは、〈阿片窟〉とか〈テロリストの隠れ家〉というようなレイベリングを一旦されたらどうなるのか。難しいのは、都市の魅力を構成する要素のひとつとして、或る種の〈やばさ〉、〈いかがわしさ〉というのは確実にあるということだ。