歩行と都市を巡って幾つか

「自動車は街を破壊する」と題して;


自動車の都合を考えて街を設計すると、恐ろしく殺風景になる。

 郊外のニュータウンとか、つくば市とか豊田市とか典型である。

 こういうところには住みたくない。

 飲酒運転はいけない。だから、自動車でしか動けないところでは、おちおち酒など呑めない。睡眠不足で運転するのもいけない。だから、自動車でしか動けないところでは、朝まで語り明かすことなどできない。自動車を運転している時には、読書などできない。だから、自動車でしか動けないところでは、むしろ時間が無駄になる。自動車でしか動けないところでは、駐車場がないと非常に困る。だから、味のある小さなお店はなかなかつらい。自動車でしか動けないところでは、誰かが自動車に乗って行ってしまうと自分はそこにじっとしていなければならない。子どもや年寄りの場合は、何台も自動車があったとしてもそうなる。

 自動車は不便だ。

 そして、自動車ばかり優先すると、道と駐車場ばかり目立って、呑み屋も本屋も喫茶店も気の利いたものがなかなかできない、つまらない街になる。
http://moderate.cocolog-nifty.com/hodoyoi/2006/12/post_06b3.html

また、

保育園の送迎などで裏通りなどを歩くが、商店の力が弱り、裏通りや路地に人が歩かなくなって、通過に使う自動車の通行量が増えている実感がある。通り抜けで焦っているのか、道幅に不釣り合いなスピードで走り抜けていくクルマも少なくない。

過日、川口での保育園児の列に暴走自動車が突っ込む事件があった。そのこと自体はとんでもない事件だが、もっと驚いたのは、その裏通りの制限速度がなかった=時速60キロだったことだ。で犯人は危険運転致死罪が適用されず、業務上過失致死で立件。それ以後気になっているので、近所の裏通りを歩くたびにチェックするようにしているが、離合もなかなかできないような狭い道が制限速度なしだったりする。同じ時速60キロで走るクルマに殺されても、時速30キロの道と制限速度なしの道では、加害者の処罰が全然違う。

そしたら、埼玉新聞で報じられたが、埼玉県警が、裏道で迂回しても、車線変更を繰り返すゴキブリ運転しても、目的地に着く時間はそんなに変わらないという調査結果を発表した。通過交通はできるだけ表通りを通すような道路規制に取り組んでほしい。

公園をもっと増やせとか、プレーパークが必要とか、その通りの要求があるけれども、一方で、そもそも都会っ子が遊び場にしていた裏通りや路地の道路を、生活の場、遊びの場として取り戻すことが必要ではないか。どこもかしこも大人が都合のよいだけクルマを乗り回して、公園を用意したからそこで遊べ、というのはまずいと思う。
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2006/11/1116_c203.html

という意見もあり*1
そういえば、ハンナおばさんのベンヤミン論(in 『暗い時代の人々』)に、彼のパッサージュ論に触れながらの、

パリでは外国人もくつろげるのは、自分の部屋のなかにいるのと同じように、この都市では生活できるからである。アパートに住んで、それを快適なものにするには、それをただ眠ったり、食べたり、働いたりするだけの場所にするのではなく、そこで生活することが必要であるように、都市に住むということも、あてもなく町を通り抜けたり、街路にそって並ぶカフェに腰を落ち着けたりすることが必要であって、カフェのかたわらを過ぎていく歩行者の流れこそ都市の生命である。今日パリは、大都市のなかでは徒歩で何不自由なく用のたせる唯一の都市であり、また他のどの都市にもまして街路を通り過ぎていく人々によって活況をていしている都市でもある。したがって、現代の自動車交通がパリの存在そのものを脅かしているのは、単に技術的な理由によるものではない。アメリカの郊外の荒地や、多くのタウンの居住地域は、パリとはまったく正反対であり、そこでは街路の生命はもっぱら車道だけにあり、今では小道になりさがってしまった歩道を歩く人々は、数マイルの間ひとりとして人間に出会うことはない。他の都市では社会の最下層の人々にだけしぶしぶと認めていること――怠けてぶらぶらしたり、散歩したりすること――を、パリの街路は実際にすべての人に誘いかける。かくて、第二帝政以来、パリは生活の資や出世、あるいは特別な目標を追い求めたりする必要のない人々のパラダイス、したがってボヘミアンのパラダイスであった。それは、芸術家や作家だけではなく、そのまわりに集まるすべての人々のパラダイスであったが、それはかれらが政治的にも――家庭も国家も持たなかったがゆえに――社会的にも統合されえない人々だったからだろう(ちくま学芸文庫版、pp.271-272)。
暗い時代の人々 (ちくま学芸文庫)

暗い時代の人々 (ちくま学芸文庫)