殴るTVディレクター

http://d.hatena.ne.jp/iDES/20061031/1162305465


取材するジャーナリスト、フィールド・ワークする学者がインフォーマントに感情移入するというのはよくあるし、私も経験がある。上の記事、元ネタは『週刊ポスト』の記事で、さらにそれは「引きこもり更生施設」「長田塾」による暴行事件を巡る裁判での被害者本人の証言と被害者の母親への取材に基づいている。事件が起こった2001年当時、「長田塾」にはNHKの取材が入っていた。被害者を主人公としたドキュメンタリーを撮影するために。両者の証言によれば、そのNHKのディレクターは、「長田塾」を「脱走」した被害者を殴り、被害者を拉致して、「長田塾」に連れ戻したという。
最初読んだときは、つまりオウムを取材していたジャーナリストなり学者なりが、教団或いは麻原に感情移入してしまった余り、一緒にサリンを撒いちゃった*1というようなものだなと思った。しかし、もう一度読んでみたら、そんな大層なものでもなさそうだ。勿論、「長田塾」の頭目である長田百合子が「脱走」した被害者の拉致をこのディレクターに依頼しているくらいだから、このディレクターは「長田塾」との間に(人によっては過剰というかも知れないほどの)信頼関係を構築していたとはいえる。しかし、被害者がそのドキュメンタリーの主役であったことを考えると、ここで主役に逃げられたら進行中の企画がパーになるぞというムカツキの余り、暴行に及んだという方が妥当なのではないかと思えた。井出草平さんは「中立である報道の人間が「ひきこもり」であるという理由で青年を殴っていたことになる」と述べているが、少なくとも引用された限りの『週刊ポスト』の記事からは、そういう動機までは推定できないぞと思った。
それにしても、証人を信じる限り、このディレクターが拉致にコミットメントしているのは事実なのである。

*1:勿論、これは下手な喩え話であり、実際にそういうことをした人はいない。