言わないよりも言った方が勿論いいに決まっているのだが

承前*1

『毎日』の記事なり;


<加藤氏実家放火>小泉首相が初コメント「許せない」

 小泉純一郎首相は28日朝、山形県鶴岡市加藤紘一自民党幹事長の自宅兼事務所が右翼団体構成員の男による放火と見られる火災で全焼した事件について「暴力で言論を封じるということは決して許せることではない」と述べた。15日の発生以降、首相は事件について一切沈黙していたが、2週間目に初めてコメントした。
 中央アジア訪問の出発に先立ち、首相公邸前で記者団の質問に答えた。
 首相は「この件については、厳に我々も注意し、戒めていかなければならない。言論の自由がいかに大切か分かるように注意していかなければならない問題だ」と発言。
 首相の靖国神社参拝がナショナリズムをあおっているのではないか、との質問には「まったくそれはないと思う。あおりたがる勢力があるのは事実だ。マスコミもなぜこんなに靖国問題を取り上げるか。よその国からあおり立てられ、よその国をあおり立てるような報道は戒めた方がいい」と反論した。
 男は割腹自殺を図り入院中。山形県警で火災との関連を捜査している。首相が「言論封じ」とコメントしたことについて、首相周辺は「質問や新聞の書き方に対応して答えた。深い状況を知って答えたのではない」と説明。また、2週間沈黙していたことについては「聞かれれば答えるが、事件が不確定な中で政府として正式なコメントは出せない」と語った。
 加藤氏は小泉首相靖国神社参拝について否定的な発言を続けてきた。火災後も毎日新聞のインタビューに対し「今まで通り発言していく」と語っている。
 ◇  ◇
 一方、安倍晋三官房長官は同日午前の記者会見で同事件について「捜査を見守っていきたい。仮に言論弾圧なら許されない。私の事務所、自宅などにも脅迫はままあるが、決して暴力に負けてはならないし、許してはならない」と語った。
毎日新聞) - 8月28日12時24分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060828-00000029-mai-pol

遅いということはあるが、このコメント自体は悪いことではない。ところで、答えというのは問いの裡に既にオンティッシュな仕方で含まれているわけだから、それなりの問いに対してはそれなりの答えしか産出されないわけだ。多分、記者が訊くべきは、「首相の靖国神社参拝がナショナリズムをあおっているのではないか」という回答の予測可能性が高い質問ではなく、『東京新聞*2が、

「状況からみて放火であることは明白。言論に対する暴力が許されていいはずがないのに、その正論が一部からしか出てこない。結局はこの問題で発言すると、小泉首相、ひいては後継者の安倍氏への批判につながってしまうから、ダンマリを決め込んでいる」

 ある党幹部も同様に「総裁選を控え、靖国問題がクローズアップされているだけに、みんな発言しないのだろう」と指摘。そのうえでこう不満を漏らす。

 「今回の事件は思想的な背景を持った言論に対する暴力の疑いが強い。本来ならば、『民主主義に対する挑戦だ』と最大級の非難をすべきだ。実際、そういう声が党の底流には強くある。にもかかわらず、閣僚や党内各派のリーダーといった立場のある人たちが一斉に非難しない。国民から見れば不思議だろう」

 こうした状況を政治アナリストの伊藤惇夫さんも「本来、党声明くらいは出していい事件だ。それが出ないのは、党内の関心が総裁選後のポスト配分に移ってしまっているからではないのか」と分析する。

 要は放火事件を非難すれば、小泉首相靖国参拝に対する批判だと受け取られかねず、それは「小泉路線」を継承する安倍氏に敵対姿勢を示すことにつながるという不安が“筋道”より勝っているというわけだ。

と指摘するような事柄に関してだろう。
ところで、『毎日』の記事でおまけのように言及されている安倍晋三の発言について。「仮に言論弾圧なら許されない」といっている。これは言葉の問題なのだけれど、「弾圧」というのは、私の日本語感覚からすると、権力を握っている者或いは体制そのものがその支配下にある者に対して行う所業である。だから、政府が国民を弾圧するというのはいえる。また、企業が弾圧できるのはその支配下にある従業員その他であって、企業は消費者やその企業とは関係のない第三者を弾圧することはできない。この場合について言えば、暴力団だろうが右翼団体だろうが左翼団体だろうが、弾圧などできない。それらの団体(の人々)ができることは、たんに脅迫とか暴力行為だが、それは弾圧ではない。もしこの発言が言語的に正しいのならば、それはかなり恐ろしいことになる。