橋場弦『古代ギリシアの民主政』

橋場弦『古代ギリシアの民主政』は数か月前に読了した本。
古代希臘の「民主政」*1に関する様々な「固定観念を注意深く取り除き」(p.8)、史実としての「デモクラティア」を復元しようとする試み。本書によれば、


(前略)ギリシア人にとってのデモクラティアとは、理念である前に、すでにそこにある生活であった。それは「教わるもの」ではなく、「生きるもの」だったのである。
本書で私が試みたいのは、「生きるもので」であった古代民主政のありさまを、ギリシア人の歴史的経験のなかから掘りおこすことである(後略)(p.3)

はじめに
第1章 民主政の誕生 
第2章 市民参加のメカニズム
第3章 試練と再生
第4章 民主政を生きる
第5章 成熟の時代
第6章 去りゆく民主政
おわりに――古代から現代へ


あとがき
図版出典一覧
関連年表
主要参考文献

アテナイにおいては、羅馬帝国に征服され、「とうに国家であることをやめ、歴史と文化遺産で知られる属州都市にすぎなくなっ」ても、「実体はともあれ、理念としての民主政は死んでいなかった」(p.204)。「ローマ帝政下でも、形ばかりの存在になりながら、民会と評議会は生き残った」(p.205)。「アテナイで最終的にいつ民会や評議会が廃止されたのかは、史料の沈黙という大海にのみ込まれていてわからない」(ibid.)。その一方で、「民主政」の記憶は急速に失われていった(p.228)。近代になって復権したのは(羅馬的な)「共和政」であって、「民主政」ではなかった(p.231ff.)。デモクラシーが「普遍的な価値」として承認されるようになったのは第二次世界大戦後にすぎない(p.234)。

*1:「本書ではデモクラティア(デモクラシー)の訳語として「民主政」の表記を用いた。「民主制」「民主主義」は、狭い意味での制度や理念と誤解される恐れがあるからである」(p.9)。