チベットの話

永江朗*1「ラシャムジャ著、星泉訳『路上の陽光』」『毎日新聞』2022年8月6日


ラシャムジャ『路上の陽光』(星泉訳)を巡って。ラシャムジャはチベット人作家で、この本は8篇を収録した短篇集。


表題作はチベットいちばんの都会、ラサを舞台にした若い男女の話。橋の上にたむろして、日雇い仕事の声が掛かるのを待っているプンナムたち。プンナムの気を引きたいランゼー。ふたりは近郊の農村からやってきた若者である。(略)四駆に乗った金持ち男が登場してランゼーの運命は変わっていく。「眠れる川」はその続篇で、プンナムは三輪自転車タクシーのドライバーに、ランゼーは四駆の男の愛人になっている。(後略)

ぼくが勝手に抱いていたチベットのイメージにもっとも近いのが、「最後の羊飼い」。羊飼いの若者が盗まれた羊を捜しながら、生きとし生けるものについて思索する。
対照的なのが「四十男の二十歳の恋」。悪天候で出発見合わせとなった西寧の空港で、かつて恋人同士だった男女が偶然再会する。北京に住む男はラサに、ラサに住む女は北京に向かう途中。(後略)