「大丈夫」な本

いしかわじゅん*1「ふっと楽になる」『毎日新聞』2022年9月4日


井上まい『大丈夫倶楽部』について。
「読み始めたら、ふっと楽になって、いい気分にな」る本だという。


(前略)主人公の花田もねは「大丈夫」であることを人生で一番重要視している。心が大丈夫であればハッピーだ。そして芦川さんだ。芦川さんは、少なくとも人類ではない。ぬるっとした白い肌の、巨大な動物だ。(略)
もねは、子供の頃から親の強権に管理され、窮屈な思いをしてきた。だから心を解放する「大丈夫」な状態になりたいのだ。
ストーリーらしいストーリーはない。もねのほっとするエピソードが語られるだけで、謎の生物芦川さんが世界征服する気配もないし、子供の頃から通う書道教室のイケメンの後継ぎのゲンローさんや、偶然出会うシニカルなイケメンとも、発展する様子は、35話まで読んだ限りではない。とにかく、もねが大丈夫になる要素しかないのだ。
謎の生物、芦川さんは、人間の脳に働きかけ、異形を気づかせないようにしているらしい。稀にそれが効かずに、リアル芦川を認識してしまうケースもある。もねは途中で気づいた節もあるが、特に気にしていないようだ。芦川さんは、静物が精神的に安定した時、つまり「大丈夫」な状態で放出するエネルギー粒子を吸って生命を維持している。モネとは、理想的なバディだ(後略)