「貴重な平凡」

いしかわじゅん*1「平凡な人生を丁寧に」『毎日新聞』2021年5月2日


ひうち棚*2『急がなくてもよいことを』について。


(前略)ゆっくりと歩んできたひうち棚の人生の一部が丁寧に、しかしあっさりと描かれている。
これは、短編集だ。18の短い物語が収められている。いや、物語でさえない。ひうち本人やまわりの誰かの生活や人生の、ほんの一瞬を、ほんの数時間を、ほんの数日を、写真をベースにして、時に漫画風に、時に写実風に、題材に合わせて描いている。
子供時代の回想があり、旅行の思い出があり、恋人と動物園にいった記録があり、実家の祖母は認知症になり、やがて恋人と結婚して子供が生まれ、家族で海に遊びにいく。
人生に、そうそう波乱はない。血沸き肉躍る展開ばかりではない。ただ、平凡がある。でもそれは、貴重な平凡だ。