魚の「自己認識」

中村桂子*1「鏡で二度見して確かめる衝撃」『毎日新聞』2021年11月20日


寺田正典『魚にも自分がわかる 動物認知研究の最先端』の書評。
この本の要点は、寺田氏自身の言葉を引けば、


ホンソメワケベラという10cmもない小さな熱帯魚*2が、鏡で自己の顔を覚え、そのイメージに基づいて鏡像自己認知を行っていることが、明らかになった。そのやり方はヒトとほぼ同じなのである。つまり、小さな魚とヒトで、自己認識という高次認知とその過程までもがよく似ていたのだ。(後略)
ということになる。

(前略)最初は鏡を攻撃していたホンソメが、[鏡を見せ始めて]3日目頃から鏡の前で「不自然な行動」(上下逆さになったり踊ったり)を始め、1週間で攻撃を止めた。チンパンジーに鏡を見せた時も不自然行動が見られ、それは自己の確認行動とされている。
そこで、寄生虫がつくと石などでこすって捕ろうとする習性を利用してマークテストを始めた。喉に茶の色素を注射し、鏡なしと鏡ありの状況に置くと、前者では何事も起きず、後者でだけ喉をこすった。マークを透明にするとどちらもこすらない。(後略)
前提としての脊椎動物の脳研究の進展;

脊椎動物の脳については、爬虫類脳(脳幹と大脳基底核)、旧哺乳類脳(大脳辺縁系)、新哺乳類脳(大脳新皮質)と進化につれて新機能が加わる三段階仮説がの唱えられ、魚や両生類は蚊帳の外だった。ところが近年、魚類で大脳、間脳、中脳、小脳、橋、延髄のある脳が完成しており、神経回路網も全脊椎動物で同じと分かってきたのだ。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20090716/1247679249 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/04/29/131433

*2:「一夫多妻の社会をもち、体表につく寄生虫を捕る習性」がある。