「裸足」の話

月永理絵「男たちの裸足によって奏でられる最高のラブストーリー」『メトロポリターナ』234、p.18、2022


工藤梨穂の映画『裸足で鳴らしてみせろ』について。


映画の中ではいつも、女性の裸足は性的なまなざしに晒されてきた。靴を脱いでベッドに横たわり、男を誘惑する女。車の外に投げ出された女の足の裏に、欲情する男。女の裸足は常に性的な何かを象徴し、艶めかしさを演出してきた。
けれど、『裸足で鳴らしてみせろ』で足を晒すのは、女ではない。気怠げに投げ出された男の両足がアップで映る冒頭ショットから、これは男たちの裸足によって語られる物語なのだと、この映画は宣言する。
どこか無骨なその足の持ち主は、養母を献身的に支える槙。その裸足に惹きつけられるのは、父が営む不用品回収会社を手伝う直己。特別な接点もないかに見えた二人の青年は、プールサイドで出会い、惹かれ合う。

(前略)人から触れられるのを恐れて生きてきた槙と直己は、どちらからともなく相手の体に触れたいと欲望し始める。初めて抱く欲望に戸惑いながら、彼らは視線をぶつけ、足を、手を絡め合う。
どう見ても、二人の間にあるのは恋心と欲情だ。それなのに、その関係は簡単には前に進まない。自分の性的指向を認める怖さからか、新しい場所へ踏み出す恐れか。相手を抱きしめる代わりに、彼らはふざけ合い、互いを傷つけることしかできない。それがなんとももどかしい。