母子が刺され

共同通信(『東京新聞』)の記事;


東京・渋谷で母娘刺される 殺人未遂容疑で自称少女逮捕、面識なしか ナイフ3本押収
2022年8月21日 05時59分


 20日午後7時25分ごろ、東京都渋谷区円山町の路上で「2人が出血している」と通行人から110番があった。警視庁渋谷署によると、50代の女性と10代の娘が刃物のようなもので背中などを刺され、病院で治療を受けている。2人とも搬送時には意識があったという。署は50代の女性を刺したとして、殺人未遂容疑で自称10代の少女を現行犯逮捕した。
 少女は2人を刺したことを認めているという。小型のナイフ3本を所持しており、署はいずれも押収した。少女と2人は面識がないとみられ、署が経緯を調べている。50代の女性が少女を取り押さえ、通報で駆け付けた署員に引き渡した。
 近くに住む自営業の30代男性は「奇声が聞こえ、女が親子に襲いかかって馬乗りになった。青ざめた娘に母親が『大丈夫?』と必死に声をかけていた。何とか助かってほしい」と声を震わせた。
 救護に当たった近くの男性会社員(28)によると、少女はあおむけで取り押さえられ、静かに泣いていた。ズボン姿でTシャツに血が付き、周囲に刃物が散乱。(共同)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/197238

また、NHKの報道;

渋谷 母娘殺人未遂 中学生“1年の3学期ごろ学校行くのが嫌に”
2022年8月23日 4時01分


東京 渋谷区の路上で親子2人が刃物で襲われ大けがをした事件で、殺人未遂の疑いで逮捕された女子中学生が「中学1年の3学期ごろから学校に行くのが嫌になった」などと供述していることが、捜査関係者への取材で分かりました。警視庁は、学校生活での悩みと無差別に人をねらった今回の事件との関連についても捜査を進めています。

今月20日の夜、渋谷区円山町の路上で、53歳の母親と19歳の娘が包丁で切りつけられるなどして大けがをし、警視庁は埼玉県戸田市の中学3年の女子生徒を殺人未遂の疑いで逮捕しました。

これまでの調べに対し「死刑になりたいと思って、たまたま路上で見つけた親子をナイフで刺した」と供述していることが分かっています。

その後の警視庁の調べに対し、女子生徒が「中学1年の3学期ごろから何となく学校に行くのが嫌になり、教室や部活の練習に行けなくなった」と供述していることが、捜査関係者への取材で分かりました。

「友だちの派閥争いが嫌だ」などと母親に話し、しだいに校内の「相談室」で自習したり昼ごろに早退したりすることが増えていったということです。

一方、これまでのところ学校でのいじめなどのトラブルは確認されていないことに加え、「家族を殺そうと思った」などとも供述していて、警視庁は、学校生活での悩みと無差別に人をねらった今回の事件との関連についても捜査を進めています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220823/k10013783041000.html

また、『東京新聞』;

「母を殺す予行練習しようと」逮捕の中3少女 東京・渋谷の女性2人刺傷 「死刑になりたかった」とも
2022年8月21日 22時05分



 東京都渋谷区の路上で面識のない母娘2人を切り付けたとして、警視庁少年事件課は21日、殺人未遂の疑いで、埼玉県戸田市の中学3年生の少女(15)を現行犯逮捕したと発表した。少女は「死刑になりたいと思ったので、たまたま見つけた2人を刺した」と容疑を認めているという。
 逮捕容疑では、20日午後7時20分ごろ、渋谷区円山町の路上で、歩いていた杉並区に住むパート従業員の母親(53)と娘(19)に後方から近づき、背中や腹を包丁で切り付けて殺害しようとしたとされる。
 少年事件課によると、娘の背中には深さ10センチ以上の刺し傷があり、3カ月以上の重傷。母親も腰の骨を折るなどの重傷を負った。いずれも意識はあるという。
 近くの飲食店従業員の男性と母親が少女を取り押さえ、駆け付けた渋谷署員に引き渡した。少女は包丁の他にナイフ2本を所持していたという。
 捜査関係者によると、少女は「自分の母親と弟を殺すための練習だった」とも供述。「まず母親を殺そうと思っていた。残される弟もかわいそうなので、一緒に殺そうと考えていた」と説明しているという。
 現場はJR渋谷駅の西約700メートルで、京王井の頭線神泉駅前のビルやマンションが立ち並ぶ一角。


◆背景に「孤立や絶望」か 近年の事件の類似性
 見ず知らずの母娘を包丁で切り付けたとされる少女は、殺害しようとした動機について「死刑になりたかったから」と警察に説明したという。他人を巻き込んで死ぬことを選ぼうとする若者が近年相次いでおり、専門家は「背景には孤立や絶望がある。人間関係を広げることが大切だ」と指摘している。
 捜査関係者によると、少女は20日昼ごろ、母親に「塾に行ってくる」と言って自宅を出ると、電車で新宿駅に向かった。人通りが少ない場所を探して歩き回るうちに現場にたどり着いた、との趣旨の説明をしているという。
 少女は中学1年の冬ごろから不登校になり、教室には行かなくなったが、週1、2回は保健室などで過ごしていた。取り調べにはシングルマザーの母親への殺意を口にする一方で、「家庭や学校でのトラブルはなかった」とも説明しているという。
 昨年10月に京王線の車内であった乗客刺傷事件*1では、容疑者の20代の男が「2人以上を殺して死刑になりたかった」と供述。今年1月の大学入学共通テスト初日、東京大前で受験生らを刺傷したとして逮捕された少年も、動機について「重罪を犯せば罪悪感を抱いて自殺を実行できると思った」と供述している。
 筑波大の土井隆義教授(犯罪社会学*2は、今回逮捕された少女の供述を踏まえ、「これらの事件を模倣した可能性がある」と推察。「少女が人生で感じた何らかの行き詰まりが負の連鎖を生んだのかもしれない」と話す。
 その上で土井教授は、さまざまな人と関わることの必要性を説く。「孤独にならず、視野も広がれば、新たな可能性を見つけることもできる。失敗を乗り越える力を身に付けることが大切だ」と強調した。(山田雄之)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/197252

東京新聞』の記事では家族内の人間関係に焦点が当っているのに対して、NHKの方では学校生活に焦点が当っている(日付としては、NHKの方が後)。まあ、断片的に伝わってくる警察のリークに依拠して、犯人の動機を言い当てようとすること自体が時期尚早だとはいえるだろう。
土井氏は、先行犯罪を模倣した可能性を説く。それはそうかもしれないが、実際の動機と語られた動機という2つの準位は一応区別すべきかも知れない。彼女は何かに駆り立てられて犯行に及んだのだろう。その一方で、その自らを駆り立てた何物かを、的確に理解し・言語化できるとは限らない。不可能ではないにしてもかなり困難であろうことは想像に難くない。しかしながら、彼女は自らの動機を、警察官やら裁判官やら新聞記者やらの所謂世間が理解可能な仕方で提示することを要請されている。『異邦人』のムルソーを気取って、太陽が黄色かったから殺しましたと供述しても*3、世間が(警察や裁判官も)許さないだろう。太陽の色と犯罪とは関係がないという常識を侵犯した罪は刑法上の罪よりも重いと判断されてしまうかも知れない。誰もが理解可能な動機を求める場合、やはり手っ取り早いのは、オンライン/オフラインを問わず転がっている既成の動機を借用(模倣)することだとは言えるのではないだろうか?ところで、「渋谷区円山町」或いは「井の頭線神泉駅」ということだと、どうしても所謂「東電OL殺人事件」*4を想起してしまう。