慶應と「自由画」(メモ)

河合正朝「椿貞雄展に想う」『C’n scene news』(千葉市美術館)82、2017


2017年に千葉市美術館*1で開催された『椿貞雄 歿後60年 師・劉生、そして家族とともに』*2に因んだ文章。
椿貞雄*3は1927年から1945円まで、慶應義塾幼稚舎の「図画教師」をしていた。
少しメモ;


八代教授は、「草土社と図画教育」という論考のなかで*4、教育学者で、慶應義塾大学文学部の教授であった小林澄兄が、幼稚舎の主任に就任すると、当時流行していた「自由教育」の思潮を背景に、「自己を表現する」教科を重視しようとしたので、綴り方、図画、手工などに特に意がもちいられたと言っています。そのために、自由画論者の山本鼎*5を招いて自由画教育に関する講演会を開いたりもしています(大正9年11月)。一方、大正11年ころから活発に論じられた、劉生*6による図画教育観に、理想的な児童教育を目指す幼稚舎のスタッフは、共鳴するところがあったようで、劉生に幼稚舎生に図画を教えてくれるよう依頼したとも言われています。しかし、これは不調に終わり、清宮彬と河野通勢がその任に就きました。河野は、劉生が「図画教育論」の中で提唱した「自由臨模」ということを尊重し、児童に美しい画を見せ、これを手本に、時には河野自身が黒板に静物などを描いて、自由に模写させ、それに自由に着色させたといいます。河野は、昭和2年に退職。同年6月から、代わって椿貞雄が幼稚舎の図画教師になります。椿は、舎生に油絵を描かせる尖端的かつ独特の図画教育を行っています(教室が汚れるという理由で、ある期間をもって中止)。清宮は昭和19年に、椿は同20年に退職しますが、ここに実に23年刊におよぶ幼稚舎と岸田劉生ら草土社の人々との付き合いが確認されます。(後略)

現在、慶應義塾幼稚舎には、椿貞雄筆の《娘図》と《富士山(河口湖)》の2点が所蔵されています。《娘図》には「昭和28年椿貞雄写」のサインがあります。顔の部分に彩色のある素描風の油彩で、おそらく孫娘の彩子を描いたのでしょう。《富士山》は、裏面にある画家の署名によって、昭和12年に描かれ、昭和25年までの間に何度も加筆されていることが知られます。椿朱明氏*7による寄贈です*8。(後略)

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141027/1414376757 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150601/1433156686 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/25/030906 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/09/111339 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/29/135133 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/01/24/012127 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/04/08/001433

*2:https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/17-6-7-7-30-01/ See eg. https://bijutsutecho.com/exhibitions/226

*3:See eg. 「椿貞雄」『日本美術年鑑』昭和33年版、p.174 https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/8923.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%BF%E8%B2%9E%E9%9B%84

*4:八代修次「草土社と図画教育」『哲学』88、1989

*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/02/21/105142

*6:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20061017/1161107110 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/01/19/234533

*7:椿貞雄の長男。See 「特別展「没後50年 愛情の画家 椿貞雄」より~孫への愛情~」https://oki-tama.jp/log/?l=119529 習志野高校ボクシング部顧問を務めた人に「椿朱明」という人がいるようだが、同一人物かどうかはわからない。See 「習志野高等学校ボクシング部のあゆみ」http://www.narashino-boxing.com/club_ayumi.html

*8:「椿貞雄《富士山(河口湖)》の修復」『慶應義塾大学アート・センター年報』10、2010. http://www.art-c.keio.ac.jp/research/collections-research/2010/2010-05-12-okuma/