ワクチンのせいではない

榎木英介*1「日本人研究者が見た「上海ロックダウン」の真実」https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20220502-00294072


新型コロナウィルス感染者が急激に拡大し、現在ロックダウン中の中国上海在住の或る日本人基礎科学者の見解。
感染拡大は中国製不活化ワクチンのせいなのか?


(前略)(新型コロナウイルスの)オミクロン世代では中国製の不活性化ワクチンと海外製のmRNAワクチンの有効性の差は小さい。問題はそこではない。新型コロナへのワクチンの実用化当初、つまり1年半くらい前の段階では、ワクチンによる感染予防効果が注目を集めたため、その印象が今でも残っているのだろう。その点では中国製の不活性化ワクチンと海外製のmRNAワクチンに確かにかなり差があった。ただ、重症化や死亡の防止という点では実は差が小さい。重症化や死亡の防止という点では中国製ワクチンも効いている。

中国国内のデータではなく、中国製ワクチンが用いられた他国のデータとしてもまとめられている。特にオミクロン世代では免疫回避能が高く、感染予防よりも重症化や死亡への予防効果が重要となっている。そのため、中国製の不活性化ワクチンと海外製のmRNAワクチンの差が相対的に小さくなっている。オミクロンが感染爆発した最近の香港でも同様の傾向だ。中国製ワクチンが効かないということはない。
問題は寧ろ、高齢者のワクチン接種率の低さにある;

一番の問題はワクチンのタイプではなく、高齢者のワクチン接種率の低さだ。上海での死亡ケースのほとんどはワクチン未接種の高齢者だ。中国では、若年層のワクチン接種率が9割を大きく超えているにも関わらず、高齢者のワクチン接種率が低く、全国平均で80%程度、上海は特に低く60%程度しかない。他国では高齢者のワクチン接種率のほうが高い状況とは対照的だ。この点は同様にオミクロンが感染拡大した最近の香港でも同様で、死亡者の多くはワクチン未接種の高齢者だった。

中国の高齢者のワクチン忌避が原因だ。中国の高齢者は西洋医学よりも伝統的な中国医学を信じる傾向があり、ワクチンや一般的な治療薬に忌避感がある。それが大きく裏目に出ているのではないかと推測している。
謎の薬?

(前略)あまり報道されていないが、実はコロナ治療薬に関しては中国も海外製のものを今年の2月に認可している。日本でも認可されているPaxlovidだ。ただ、圧倒的に不足しているという話を病院関係者から聞いている。その一方、政府が推しているのが中医薬(日本の漢方薬に相当)だ。最近の上海では「連花清瘟」という中医薬が全世帯に配布された。

連花清瘟がちゃんとした治験で効果が実証されたことはない。実は中国国内でもこれから二重盲検試験を始めるという段階だ。それにも拘らず大量配布されているという不思議な状況だ。伝統的な中国医学は高齢者のワクチン忌避の遠因ともなっており、中国の新型コロナ対策にはマイナスなのは明らかだが、政治的な影響力が大きく、上海での全戸配布へとつながっているのだろう。海外メディアも中国のコロナ対策の問題点として、実際には効果がある中国製不活性ワクチンに対してではなく、高齢者のワクチン接種率の低さや効果の実証されていない中医薬が推進されているといった真の問題点にもっと着目すべきだと思う。批判すべきポイントがズレていると感じる。
ロックダウンの副作用としての医療崩壊

(前略)私の周囲をみても飢え死にレベルの状況にある方はほぼみなかった。苦労しつつも何とか食料確保していたというのが多くの方にとっての実情だろう。それより深刻なのは医療体制だ。医療体制といってもコロナ治療ではない。コロナ以外の医療へのアクセスだ。身近でも出産予定日なのに病院に行けない妊婦さんの話を聞いた。持病の薬がなくなっても薬を確保できないという問題もかなりあったようだ。著名人の家族が病院に行けず亡くなった報道もあった。これらはすべて生きるか死ぬかの問題だ。これらの原因でなくなった方は確かにコロナ死にはカウントはされないが、それでいいのか。ロックダウン下で一番深刻な問題だと思う。