貝塚(メモ)

田邉由美子、高梨友子「縄文時代の生き物利用」『生物多様性ニュースレター』(千葉県生物多様性センター*1)67、pp.1-3、2020


曰く、


千葉県は全国の貝塚の約3割が所在する日本一の貝塚密集地帯です。日本列島は酸性土壌であるため、通常の遺跡では貝や骨、植物などの有機物は溶けてしまい残りません。ところが貝塚は、貝殻のカルシウム分が土壌を中和するので、土器や石器だけでなく有機物も出土します。そのため縄文研究には絶好のフィールドとなり、明治の考古学黎明期から多くの研究者・収集家たちが千葉県を訪れ、盛んに発掘が行われました。(p.2)

腕輪の素材として使われたものに、オオツタノハがあります。オオツタノハは、大きさが約10cmにもなる巻貝で、日本列島でも、南の島嶼部や伊豆諸島の一部などごく限られた地域に生息し、荒波打ち付ける岩場に生息しているため、人が採集するのは非常に困難と言われています*2。暴走の海岸部では手に入れることができないこの希少な貝の腕輪が、加曾利貝塚千葉市*3などから出土しています。(ibid.)

有吉南貝塚千葉市*4からは、頭に深鉢を被り、イルカ類の下顎を素材とする垂飾を腰に着けた埋葬人骨が出土しました。このような垂飾の出土例はとても少なく、特別な人物しか身に着けることができなかったようです。また、オオヤマネコやオオカミ、ツキノワグマなど、現代ではすでに絶滅してしまった、あるいは房総半島には生息していない動物の牙を素材にした動物の牙を素材にした装飾品も出土しています。希少性のある素材を身に着けることで、動物の持つパワーを身に着けようとしていたのかもしれません。(pp.2-3)
そもそも「オオヤマネコ」*5が日本列島に生息していたことは知らなかった。また、房総半島に熊が生息していると熱心に信じている人はいるけれど*6、千葉県は野生の熊が生息していない県のひとつである*7 。なお、現在の千葉県の地には、現代はおろか縄文時代にも熊は生息していなかった可能性があるという*8

*1:http://www.bdchiba.jp/

*2:See eg. 忍澤成視「貝の考古学(1) 貝から読み取る先史時代の人々の交流」https://www.city.ichihara.chiba.jp/maibun/note25.htm

*3:https://www.city.chiba.jp/kasori/index.html See eg.加曽利貝塚博物館「加曽利貝塚について」https://www.city.chiba.jp/kasori/infomation/overview/kasori_index.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E6%9B%BD%E5%88%A9%E8%B2%9D%E5%A1%9A

*4:See eg. 有吉日枝神社「有吉南貝塚の紹介」http://www.ariyoshi.or.jp/kaiduka.html

*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170116/1484529578

*6:宮崎学「千葉県のツキノワグマ事情」http://tukinowaguma.net/archives/120

*7:See eg. 環境省「クマ類の出没への対応」https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/pdfs/chpt1.pdf 大井 徹、山崎晃司編「日本のツキノワグマの生息状況」 in 日本クマネットワーク編『アジアのクマたち : その現状と未来』)日本クマネットワーク、pp.120-130、2007

*8:鶴岡英一「西広貝塚出土の骨製垂飾品(1)」https://www.city.ichihara.chiba.jp/maibun/note21.htm