戦後の終わりの余波



id:nessko

アメリカの政治に対してウォール街の影響力が強いのは単なる事実でしょうけれど、そこから、その黒幕はロスチャイルドだ! と言い出すと、陰謀論になってしまうのですね。
それと、オリーブの木、という名前の由来となった元祖というか元ネタは、ヨーロッパの政治団体というか政治的市民運動体じゃなかったですかね?

伊太利の政党連合でした。「政治団体」というよりも。日本版「オリーブの木」の場合でも、集まった小林興起天木直人、それから黒川敦彦は、それぞれ(マイクロながら)自分の〈党〉を持っていました。
伊太利のオリーヴの木を語る場合、どうしても1990年代前半の政治状況を踏まえておく必要がある。戦後(冷戦下)の伊太利の政治というのは、保守政党の基督教民主党、伊太利社会党イタリア共産党の三つ巴というか、これら三大勢力が対立したり妥協したりしながら行われていた。1991年に蘇聯崩壊を背景として、伊太利共産党が「共産党」の名称を止めて、「左翼民主党」に改称してしまう*1。さらに、1992年にマフィア(コーザ・ノストラ)絡みの大スキャンダル「タンジェントポリ」*2が発覚し、現職のジュリオ・アンドレッティ総理のコーザ・ノストラや極右秘密結社との癒着、過去におけるテロ事件への関与が暴露され、やはり コーザ・ノストラとの癒着が暴露された社会党も捜査対象となったベッティーノ・クラクシ書記長がチュニジアに亡命するという事態になった*3。一連の過程で、基督教民主党社会党は解散を余儀なくされた。伊太利では、僅か数年の間に三大政党がなくなってしまうという事態が起こった。この政治的空白に乗じて、政権を掌握したのはシルヴィオ・ベルルスコーニ*4率いる右派勢力で、オリーヴの木というのは元々これに対抗して、基督教民主党左派の経済学者ロマーノ・プローディが中道勢力、左派勢力の結集を呼びかけたものです。また、その中心を担ったのは元共産党である左翼民主党でした。その後の伊太利の政局は左右の振り子状態が続いていますが、その特徴は状況を単独で支配できる政党は最早存在しないということでしょうか。さらに最近では、第三極というか、ポピュリスト勢力が伸長しており、たしか現在の伊太利の政権は、左派っぽいポピュリスト「五つ星運動」と極右に近い「同盟」(旧「北部同盟」)との連立政権の筈。
オリーヴの木に関しては、


平島幹「イタリア中道左派政党連合、「オリーブの木」L’Ulivoとは」https://passione-roma.com/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E4%B8%AD%E9%81%93%E5%B7%A6%E6%B4%BE%E6%94%BF%E5%85%9A%E9%80%A3%E5%90%88%E3%80%81%E3%80%8C%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%96%E3%81%AE%E6%9C%A8%E3%80%8D/


を参照しました。
ところで、ウンベルト・エーコ*5の最後の小説『ヌメロ・ゼロ』は陰謀理論満載なのだけど、冷戦終結後に戦後伊太利が突如終わり始める1992年のミラノが舞台。「オリーブの木」とかに反応してしまったのは、最近になってこの小説を読んだことが影響しているからかも知れない。

ヌメロ・ゼロ (河出文庫 エ 3-1)

ヌメロ・ゼロ (河出文庫 エ 3-1)

*1:その後の経緯からすると、ここで「共産党」を捨てて「左翼」を維持したことは吉だった。

*2:See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%9D%E3%83%AA

*3:彼は結局伊太利に帰還することなくチュニジアで客死した。

*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080918/1221763583 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100415/1271330711 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110730/1312003630 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110917/1316223691 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111203/1322895817 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160615/1465947658 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/06/16/111154

*5:http://www.umbertoeco.it/ See eg. https://en.wikipedia.org/wiki/Umberto_Eco https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B3 Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060813/1155440006 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070305/1173067919 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070307/1173234120 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070315/1173952265 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091001/1254374520 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101030/1288370909 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101223/1293085550 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110715/1310706171 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20111203/1322895817 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140630/1404104626 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140712/1405130782 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140825/1408943394 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160220/1455977585 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160520/1463710878