京橋と小説

乳と卵 (文春文庫)

乳と卵 (文春文庫)

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私事で恐縮ですが、私は学生時代京都の城陽市という所に下宿致しておりまして、休日に友人達に会う為に大阪へ行く時には、京阪電車で京橋へ出てJR大阪環状線に乗り換えるのが定番でした。ただ、ほとんど乗り換えるばかりで、駅の周辺を歩いたことは数えるほどしかありませんが、この川上氏の小説に出てくるような庶民的な風景と、OBP(大阪ビジネスパーク)の近代的な風景が共存する、何とも不思議な街であることは確かです。

やはり、東京の京橋と大阪の京橋は、同じ「きょうばし」でも、イントネーションも違いますし、雰囲気もかなり違います。

さて、京阪電車の沿線は、大阪の中心街からは北東、つまり鬼門の方角に当たる為、なかなか宅地化が進まず、ついには京阪電鉄が沿線の香里園に成田山不動尊を千葉から勧請して方除けを行い、その為、現在でも京阪電車の全車輌に成田山のお札が貼られているのですが、その為か、沿線の守口市門真市には、宅地化が遅れた分、松下電器三洋電機の工場が多く立地し、それらの工場に勤める人々が、前述したような京橋の夜の街の常連客となっていったのかも知れません。長々と失礼致しました。

ところで、川上未映子の『乳と卵』ですが、読み終わってみると、この小説で具体的な記述のある地名というのは大阪の京橋だけなのだった。夏休みを使って、「わたし」の妹である「巻子」とその娘の(「わたし」にとっては姪にあたる)「緑子」が大阪から、東京に住む「わたし」の家にやってきて、数日間滞在するという筋なのだけど、「巻子」や「緑子」が大阪のどういうところ住んでいるのかは明かされておらず、東京の「わたし」の家も東京駅から山手線で上野に行って、そこで「乗り換えて二駅」といわれているけれど(pp.23-24)、具体的な地名は明らかにされていない。
さて、大阪の京橋が重要な役割を果たす小説としては、柴崎友香*1『わたしがいなかった街で』があります。
わたしがいなかった街で (新潮文庫)

わたしがいなかった街で (新潮文庫)