最初はネガティヴだった

#BlackLivesMatterを巡る柴田元幸*1のツィート;


ところで、#BlackLivesMatterに言及する多くの人がmatterがwalkやriseやslideと同類の動詞だという事実に全然驚いていないということにちょっと驚いている。「黒人の生命は大事だ」と取り敢えずは訳せるだろうけど、matterが動詞ではなく形容詞(補語)だと思い込んじゃう人もいるだろうし、その気持ちはよく理解できる。例えば、(私なんかより英語力もある筈の)某国際ジャーナリストが”is matter”と書いちゃっているのだけど*2、isをつけたくなった気持ちはよくわかる。
ところで、私がこのmatterという動詞を初めて意識したのはクィーンの「ボヘミアン・ラプソディ*3だった。”Nothing really matters/To me/Any way the wind blows”(みんなほんとうにどうでもいいんだ/私には/風がどう吹くかななんて)。
最初に意識したmatterは否定形だった。#BlackLivesMatterを理解する際に、その否定形(Black lives don't matter.)を考えてみると、わかりやすいかも知れない。黒人の生命なんかどうでもいいという状況があって、それに対する、どうでもよくないよ! というカウンターステイトメントとして、Black lives matterという発話はあるわけだ。こうすれば、#BlackLivesMatterじゃなくて#AllLivesMatterだろうという横やりがあまり質の良くない余計なお世話だということもわかりやすくなる。Black lives matterというのはmatterではない状況に対する応答であり、どうでもよくないよ! 何とかしろ! という要請だからだ。
話の次元を変えてみると、正義(justice)をポジティヴな仕方で提示することはできず、ましてや正義を押し付けるなんてもっての外だ。しかし、不正義を告発しつつ、何とかしろ! と要請することは可能であり、正義というのはそもそもそのような仕方でしか語ることができない。
オペラ座の夜

オペラ座の夜

  • アーティスト:クイーン
  • 発売日: 1994/05/18
  • メディア: CD