哲学好き(吉村萬壱)

久坂部羊吉村萬壱「ハッピーエンドはとても書けない」『青春と読書』(集英社)525、pp.2-8、2020


曰く、


久坂部 具体的に、どういうときに、書くものを思いつかれるんですか?
吉村 うーん、どうだろう。何か腹立つこととか、嫌だな、不自然だなと感じることがあったときですかね。例えば『ポラード病』を書いたのは、当時「絆」が叫ばれていた空気に違和感があって、それが書く原動力になりました。
久坂部 そこに、吉村萬壱流の加工と発酵をさせている感じがします。
吉村 なんだろうな。僕、哲学が好きなんですよ。哲学って物事の根本を問う学問じゃないですか。だから何か嫌なことを感じたときに、哲学書を読むと、わからないなりにヒントになるし、着想が湧いたりしますね。
久坂部 例えばどんな哲学書を?
吉村 一番好きなのはニーチェで、ハイデッガーサルトルも読みますね。
久坂部 西洋哲学を。
吉村 そうですね。全く理解できないけど、ドゥルーズを読んでみたりとか。何かすごいことを言ってるみたいだぞという、その感じが好きなんです。あと、ふだん自分が使っている言葉とは全く違う言葉で書かれているから、発想が飛ぶ。発想が自由になる気がするんです。そういう影響はあるかもしれません。
久坂部 なるほどね。萬壱さんに書いていただいた『黒医』の文庫解説の中に、エミール・シオランが出てくるので読んでみたら、僕でもこんなひどいこと言わないわ、というくらい徹底的にペシミスティックな思想家でした。
吉村 本当に落ち込んだときは、シオランくらいしか読めないですよね。(p.8)
ボラード病 (文春文庫)

ボラード病 (文春文庫)