或る冤罪の話

京都新聞』の記事;


危険生物「赤いクワガタ」要注意 生息域が拡大、体液でかぶれ
7/11(木) 9:04配信 京都新聞


 触ると水ぶくれなどの症状を引き起こす昆虫「ヒラズゲンセイ」が京都や滋賀で生息域を広げている。四国など温暖な地域で見られた種だが、生息域が年々北上してきた。専門家は見つけても触らないように呼び掛けている。
 ヒラズゲンセイは、ツチハンミョウの一種で体長約2、3センチ。真っ赤な体とクワガタのような大あごが特徴で、6、7月に成虫になる。体液が有毒で、皮膚につくとかぶれや水ぶくれを引き起こすことがある。クマバチに寄生し、クマバチが好むサクラや巣を作る古い木造家屋など、多様な場所で見られるという。
 生態に詳しい大阪市立自然史博物館の初宿成彦学芸員によると、もともと近畿地方には生息していなかったが、1976年に和歌山県で発見され、京都・滋賀では2009年に京都市伏見区、12年に栗東市で確認された。
 現在の生息北限は、京都府南丹市滋賀県近江八幡市とみられる。今月8日には、大津市北部の旧志賀町地域の住宅街で見つかった。捕まえた和邇小2年、高木春毅くん(7)=同市=は「新種の赤いクワガタかと思った。毒があるなんてびっくりした」と話していた。
 初宿学芸員は「目立つ虫なので、特に子どもが間違って触らないよう気をつけてほしい」と呼び掛けている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190711-00000003-kyt-sctch

「ツチハンミョウ」ということで、斑猫は昔から毒虫として有名だよねと思った。しかし、ちょっと調べたら、「ハンミョウ」と「ツチハンミョウ」は科が違い*1、有毒なのは「ツチハンミョウ」であって「ハンミョウ」は無毒だということがわかった。
農林水産・食品産業技術振興協会「毒薬「はんみょうの粉」の正体」*2に曰く、

 甲虫類のツチハンミョウ科の仲間は、成虫の体液に致死量がわずか30ミリグラムという猛毒のカンタリジンという物質を含有し、 それは洋の東西を問わず古来毒薬として利用されてきました。

 本来の「斑猫の粉」の正体はその成虫の乾燥粉末です。中国産のそれはキオビゲンセイという種類で、 乾燥した成虫体に25%ものカンタリジンを含有しています。カンタリジンの用途は毒薬ばかりでなく、 おできのウミ出しの刺激発砲剤に多用されているほか、少量を内服(大変危険ですが)すれば催淫や利尿、 躁鬱病、性病、知覚麻痺などに効果があるとされています。

 日本では江戸時代の初期に中国から渡来した「本草綱目」が原典となって漢方医学が発展しました。しかし当時、 これに出ていた「斑猫」の日本の種類への当てはめを間違え、山道などで人の歩く前へ前へと飛んで止まる習性から 「みちおしえ(道教え)」と呼ばれていた無毒の甲虫に「和(日本)の斑猫」の名を与えてしまったのです。 ですから大奥で若君の謀殺などに使われた「斑猫の粉」は、若君の栄養にこそなれ、これを使った謀殺はことごとく失敗したはずです。 それどころか現在でも名前からこの無毒のハンミョウを猛毒と信じている識者がたくさんいます。

 日本にもカンタリジンの含有量がとりわけ多いツチハンミョウ科のマメハンミョウという種類がいて、 古くから体液に触れただけでもヤケド状の水ぶくれになることまでわかっていながら、これが毒薬として使われた形跡はありません。 マメハンミョウは成虫が大豆の葉を食べる害虫、幼虫がイナゴの卵をたべる益虫という奇妙な虫で、 のちにこの虫は発泡剤の原料としてカンタリスの名で「日本局方」にも登載されました。しかし、 近年はイナゴの激減からこの虫も少なくなり、発泡剤の原料はもっぱら中国から輸入した前記のキオビゲンセイが使われ、 最近では「局方」からもその名が削除されています。

 その昔、悪相の御殿医や根性の悪い側室が若君の謀殺に正しくマメハンミョウの粉を使っていたら、 江戸時代の大名家の歴史は大きくかわっていたかも知れません。