「取り消し」

承前*1

産経新聞』の記事;


元東洋英和院長の「読売・吉野作造賞」受賞取り消し
5/17(金) 17:28配信 産経新聞


 著書執筆に際し捏造(ねつぞう)や盗用があったとして懲戒解雇された東洋英和女学院元院長の深井智朗氏をめぐり、読売新聞社中央公論新社は17日、深井氏の著書「プロテスタンティズム」(中央公論新社)を対象に昨年授与した読売・吉野作造賞を取り消すと発表した。

 読売新聞社などが深井氏へのヒアリングなどを行った結果、同書に不正行為は認められなかった。だが、大学の調査委員会が今月10日、別の著書「ヴァイマールの聖なる政治的精神」などに捏造と盗用があったと認定したことを受け、同賞の選考委員会は「深井氏には研究者倫理の欠如が認められ、研究姿勢に重要な問題がある」と判断。「授賞取り消しが相当」とした。

 読売新聞グループ本社広報部は「授賞を取り消す事態となったことは誠に遺憾です」とコメント。同書は今月7日以降、出荷停止措置となっている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190517-00000541-san-soci

中公は既に読売グループなのだった。
プロテスタンティズム』自体には「不正行為は認められなかった」のに「読売・吉野作造賞」は「取り消し」。「吉野作造賞」というのは本に送られるのか、それとも人に贈られるのか。さらに驚いたのは、この本が「出荷停止措置となっている」ということ。事実上の絶版? たしかに深井氏は「研究者倫理の欠如が認められ」る悪人であるかも知れない。でも、悪人には著作(言論)活動をする権利、自己主張をする権利は認められないのか、と反問しておきたい。
また、この「取り消し」や「出荷停止措置」の話から想起したのは、中世カトリックにおける「秘跡」の有効性を巡る論争だ(Cf. 堀米庸三『正統と異端』*2、森本あんり『異端の時代』、p.144ff.)。罪を犯した司祭による「秘跡」は有効なのかという問題。大学の教員も単位認定とか学位の授与といった「秘跡」を授けるわけだけど、今に罪を犯した大学教授による学位授与や単位認定の有効性を疑うという風潮も出てくるのでは?
異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

異端の時代――正統のかたちを求めて (岩波新書)

問題の本も含めて、深井氏の著作を参照したり・引用したりした論文はどうなるのかという問題も提起されているようだ;


田中美知生「ねつ造研究を引用した論文、取り消しになる? 「カール・レーフラー」問題で注目」https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190515-00000011-jct-soci