Goffman on Body(メモ)

承前*1

コロキウム〈第2号〉―現代社会学理論・新地平

コロキウム〈第2号〉―現代社会学理論・新地平

速水奈名子「身体社会学とゴッフマン理論」(『コロキウム』2, pp.80-102)の続き。
3節「ゴッフマン理論における身体再考」。ここから、速水さん独自のゴッフマン解釈になる。
まず、「ドラマトゥルギー」。「ゴッフマンの研究領域は一貫して相互行為状況である」(p.88)として、


このドラマトゥルギーとは、相互行為という社会システムを分析する際の一つのパースペクティブであり(Goffman [1959]*2、共在状況における、行為者相互間の「印象管理」*3をパフォーマンスという観点から考察する立場である。印象管理とは、共在状況において行為者が互いに他者の視線に配慮し、自らの行為を状況の定義に則して制御することを指す。(pp.88-89)
「機能主義者」としてのゴッフマン;

(前略)彼の理論の根底にある理論的源泉は、デュルケムの社会学理論である。ゴッフマンはデュルケムと同じく、経験的リアリティを重視した人類学的な観点から相互行為を分析していた。また、ゴッフマンの相互行為論は、基本的に機能主義的な立場から進められたものである。彼は、機能主義的な立場に依拠しながら(略)、つまり相互行為秩序を可能にしている社会(的構造)を想定するかたちで自らの理論を展開していた。
(略)彼は、デュルケムが『宗教生活の原初形態』(1912)において分析した部族社会における儀礼行為を、近代社会における「人格崇拝」の文脈におきかえ、表敬(deference)と品行(demeanor)という相互行為儀礼を提示した(Goffman [1967]*4。ゴッフマンは、日常生活における相互行為において、行為者が互いにこのような相互行為儀礼のバランスを取りながら、自他の面子を維持することに努めている点を明らかにし、またそれが結果的には相互行為秩序の維持につながる点にも言及していたのである。(p.89)
宗教生活の原初形態〈上〉 (岩波文庫)

宗教生活の原初形態〈上〉 (岩波文庫)

宗教生活の原初形態〈下〉 (岩波文庫)

宗教生活の原初形態〈下〉 (岩波文庫)


(前略)このようなドラマトゥルギカル・アプローチや身体儀礼論に基づいたゴッフマンの理論を確認する限り、彼の理論における身体はシリングが指摘したように、単なる文化・社会的に構築された、統制の対象となる身体−−デカルト的二元論に囚われた社会構築主義的身体−−であるかのように思われる。
しかし、ゴッフマンは後期の著作において、認知的考察、すなわちフレーム理論の考察に入り、行為者がいかに状況を把握し、経験を組織化していくのかという問題について考察しており、その際、動物行動学における儀礼論に依拠しつつ、身体を経験の組織化を担う要因として捉えている。この点は、彼が身体概念を、単に社会構築主義的な観点から捉えていたのではないということを指摘していく上で重要な点になるだろうと考えられる。(ibid.)
「フレーム理論」については、やはりFrame Analysisをマークしておく。
Frame Analysis: An Essay on the Organization of Experience

Frame Analysis: An Essay on the Organization of Experience


(前略)ゴッフマンは動物行動学的儀礼の観点を相互行為論に援用し、日常生活において行為者がいかに状況内においてコンセンサスを取り合い、それを維持することに努めているのかを分析している。このコンセンサスは、身体化されたディスプレイを互いに知覚することによって可能になる。ここから、ゴッフマンが身体を−−(略)統制の対象とされる物理的なモノでも、単なる表出的な意味の担い手(身体イディオム)でもない−−、現実の組織化の担い手として捉えていたということができる。
また、ここで扱われているディスプレイは、人間の行為だけではなく、いわゆる「文化体系」をもたないとされる動物の行動においても機能しているものと仮定されているため、このレベルの身体を、「自然」なものであるのか、また社会的なものであるのかを判断することは非常に困難であるということにも言及しておく。(p.91)

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090508/1241754422 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090512/1242096717 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090513/1242181842

*2:The Presentation of Self in Everyday Life

The Presentation of Self in Everyday Life

The Presentation of Self in Everyday Life

行為と演技―日常生活における自己呈示 (ゴッフマンの社会学 1)

行為と演技―日常生活における自己呈示 (ゴッフマンの社会学 1)

*3:impression management. 「印象操作」とも。See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061124/1164336947

*4:Imteraction Ritual