「門下」のこと

それから (新潮文庫)

それから (新潮文庫)

柳広司*1「らしからぬ不穏――夏目漱石『それから』」『思想』826、2017、pp.40-44


漱石の『それから』*2は「あまり評判の良くない小説だ」という(p.40)。
その悪評の前提には近代日本の文壇に特有の「師匠・弟子」関係があるという。


その昔、日本には「小説家を目指すにはエラい先生の門下に入り、弟子もしくは書生となって修行を積む」というイメージが社会に浸透していて、例えば田山花袋の『蒲団』などを読めばその辺りの事情が詳しく書かれているのだが、どうも落語家や相撲取りと同じジャンルの職業と見なされていたらしい。実際、多くの者たちがそうして文壇にデビューしている。また、日本の大学には文学部なるものがあり、指導教官の下で文学を学んで論文を書き、卒業して大学教授となる――これも師匠・弟子筋だ。
いずれも先生(師匠)の教え(説)を弟子たちが受け継ぎ、深化・発展させていく方式だ。それはそれで美しいスタイルなのだろう。どんな業種でも、結果さえ出せれば過程は関係がない。結果が出ればの話だ。
業界全体が、ある種の人間関係で結ばれた共同体。(pp.41-42)
蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)