「難民」に準じて

橋本直子「日本から「難民」が出る時代に?  伊藤詩織さんと辛淑玉さんのケースに見る日本における迫害と人権侵害」https://www.huffingtonpost.jp/naoko-hashimoto/refugee-japan-problem_a_23391983/


厳密な意味では「難民」ではないけれど「難民」に準じた存在として海外に移住した日本生まれの2人の女性。


毎日新聞の記事によれば、伊藤詩織さん*1は性被害を告発した後、インターネット上などで激しい中傷や脅迫を受けた結果、自宅に戻れなくなり、人権団体の助けで昨年秋頃ロンドンに移住されたそうです*2

私は伊藤詩織さん個人の「移住」の経緯について詳細は知りませんが、一般論から言えばこのようなケースの場合、イギリス政府によって「人道保護(Humanitarian Protection)」の枠で受け入れられた可能性があります。 

イギリスにおける人道保護制度とは、難民条約上に言う「難民の定義」には当てはまらないけれども、母国に帰ると「深刻な危害に遭う現実的なおそれ」(real risk of serious harm)がある人に与えられる滞在許可です。許可が与えられるのには様々な根拠がありますが、「非人道的な又は品位を傷つける取り扱い」を受けるおそれも、一つの根拠とされています。

例えば、レイプ被害に遭ったのに、その加害者が有力政治家と繋がっているために不起訴処分となり、更に性被害を公表したために一般人から激しい中傷や脅迫を受け、自宅に戻れなくなった等の場合、明らかに「非人道的な又は品位を傷つける取り扱い」にあてはまります。

また、独逸移住の辛淑玉さん*3。辛さんの事情については全然知らないのだけれど、ここで橋本さんがリンクしている記事は、それ自体が「人権侵害」の証拠として通用するんじゃないかという代物ではある*4

これは難民条約上の「難民」の定義に照らし合わせると、「人種」(コリアン)、「国籍」(韓国籍)、「特定の社会的集団」(女性の在日コリアン)、「政治的意見」(沖縄基地問題)に基づく迫害のおそれがあると、重層的に「難民」の定義にあてはまる可能性があります。

ただし辛淑玉さんの場合は日本国籍ではなく韓国籍をお持ちのようなので、そのような方が国際法上で「難民」と認められるためには、国籍国(この場合は韓国)でも保護が期待できないことを立証しなくてはなりません。

しかし、日本生まれ日本育ちで日本に永住しておいでの辛淑玉さんに突然韓国に行け、というのはさすがに非人道的なので、「難民」としての庇護(亡命)ではなく(人道的)「入国許可」という形でドイツが受け入れたと推察することができます。

辛淑玉さんの移住の経緯について私自身が詳細を承知している訳ではありませんし、全く別(例えば「一時滞在許可」などの)在留資格が与えられたのかもしれませんが、日本で辛淑玉さんが受けたような人権侵害や迫害のおそれのためにドイツが人道的保護を与える、というのは少なくとも一般論としては考え得るシナリオです。