東西を問わず

馮祖貽『煊赫旧家声 張愛玲家族』(新星出版社、2017)*1から。


中国伝統小説、戯劇中、後母往往是凶悪、残暴的象徴。她施虐於前妻子女、使他們孤苦無依甚至被逐出家門。藝術是生活的集中再現。現実中確有類似的後母存在、張愛玲就是在自己家中、看到了無数伝統芸術形象的後母。(p.95)
「後母」は継母のこと。張愛玲の父母は離婚し、後に再婚した。特に、1937年に「淞滬戦争」(第二次上海事変*2が勃発してからは、前線近くに住んでいたこともあって精神的に不安定になった継母(父親の後妻)及び父親によって、暴行を受けたり、自宅に軟禁されたりしていた(See eg. 97-98)。
さて、「後母」(継母)が暴虐な存在として描かれるというのは中国だけの話だろうか。例えば、『白雪姫』*3だって、継母(お妃様)による継子(白雪姫)いじめの物語といえるだろう。まあこのように、悪しき継母の物語というのは洋の東西を問わずに流布しているわけだ。では、現実の継母たちはそんなに悪しき人たちなのだろうか。上に引用した文章では、「藝術是生活的集中再現」であり、「現実中確有類似的後母存在」だと述べられている。それでも、継母による子どもへの虐待が実の親よりも圧倒的に多いとはとても信じられない。自宅軟禁ということだと、AV女優の黒木香は高校卒業後、実の母親によって、5年間に亙って、自宅に軟禁されていた(井田真木子『フォーカスな人たち』*4、pp.129-130)。勝手な想像だけど、継母が悪魔化されるというのは、実は実母たちによる陰謀なのでは? 子どもたちに実母のありがたさを思い知らせるために悪しき継母たちの話を語っているのでは? また、フィクションの中では、継母によって虐められるのは専ら前妻の娘であるように見えるけれど、これもよくわからない。〈父〉の奪い合いという解釈も可能だけど、継母に虐待される娘が常にファザー・コンプレックスだとは限らないだろう。少なくとも、白雪姫や張愛玲は違う。まあ、継母と(前妻の)息子の物語はこれとは違った展開を見せることが多いのかも知れないけれど。生物学的には近親相姦のタブーは侵犯されてはいないけれど、社会学的には侵犯されているということで。
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フォーカスな人たち (新潮文庫)

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