読める字/書ける字、など

山崎春奈*1「活字離れ?いやいや、今の日本人は漢字に詳しいですよ」https://www.buzzfeed.com/jp/harunayamazaki/kadokawa-shinjigen


漢和辞典『角川新字源』の「改訂新版」が出た。その改訂・編集作業を担った角川書店辞書編集部の坂倉基氏へのインタヴュー。
『新字源』ではなく、潁原退蔵、尾形仂編『江戸時代語辞典』の話;


――当たり前のように世代を超えていく、時間感覚の長さがすごいです。

今お願いしている先生は、初版の編者の薫陶を受けた方なので、その意味でもわかりやすく「次世代」ですよね。

辞書の仕事には、まれにそういうものがあります。時を超えるという意味では「江戸時代語辞典」(2008年)が印象的でした。担当編集者も次々と変わり、僕が入ったときに、70年の時を経てようやく発行に至ったんです。


――70年? 一体何が!

単語の収集が始まったのは戦前。戦時中は防空壕で保管されていたそうです。心血を注いだ初代編者の潁原退蔵先生は亡くなりましたが、その後、娘婿の尾形仂先生が引き継がれることになり、ようやく出版にこぎつけた一冊でした。戦火に巻き込まれ、出版社も転々として、ついに……。

刊行間際、尾形先生のご自宅に完成した本をお持ちした時、それを手にした先生は、言葉もなくはらはらと涙をこぼされたんです。

まさか、自分の人生にこんな瞬間があるとは。先代から編纂を受け継ぎ、この一冊に込めた思いを感じました。
(後略)

たしか、『廣漢和辞典』も活版を組んだのに空襲で灰燼に帰したということがあったのでは?

――今この時代に漢和辞典を改訂する意義を、坂倉さんはどう考えていますか?


活字離れなんて言われますが、今の日本人は数十年前と比べて格段に漢字に詳しいのではないでしょうか。

先ほども述べたとおり、PCやスマホが普及して、日常的に変換機能を使いますよね。漢字を書けなくても、使ったり読んだりする頻度はすごく増えた。

例えば、常用漢字に「鬱」が入った時、かなり話題になりました。書けないけど、読めるし意味はわかる。そして、適切に変換できますよね。現代において「一般の社会生活において使うべき目安」の基準は確かにそこにある。

日本人と漢字と距離が近づいている今、一文字ずつの意味や使い方にあらためて興味を持ってもらえたらという思いはあります。
(後略)

国際的なコミュニケーションの場面でもそうなんじゃないだろうか。漢字を見れば大まかな意味がわかるのだから変な日本語(中国語)に訳すよりも中国語(日本語)のままの方がましじゃないかと思っている日本人(中国人)は少なくないと思う。
さて、読めて且つ書ける漢字よりも「書けないけど、読めるし意味はわかる」漢字の方が多いというのは「PCやスマホ」が出現する以前から当たり前の話だっただろう。「PCやスマホ」はそのことをより可視的なものにしたにすぎない。そもそも字との付き合いにおいて、普通の大人なら、字を書くよりも読む方が多いわけだし。それなのに、戦後の言語政策においては、読める漢字と書ける漢字の一致がパラノイア的に追求されたと言える。だから、〈うつ病〉というような所謂〈交ぜ書き〉が強制されたりする。
ここで、丸谷才一『桜もさようならも日本語』*2をまたもやマークしておく。
桜もさよならも日本語 (新潮文庫)

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