Return of Dialectics? - Living, Loving, Thinking, Again

最近「アウフヘーベン」という言葉が流行っているそうな。
まあ1980年代以来、現代思想の基調は〈反弁証法〉だった筈だし、最近では日本共産党だって「アウフヘーベン」だの「止揚」だのという言葉は使わないよ、というか、読んだり聞いたりしたことはない（笑）。
さて、1988年に出た今村仁司編『現代思想を読む事典』の「止揚」の項を執筆しているのは鷲田清一先生*1だった（pp.316-317）。ちょっと最後の部分を書き出してみる；

（前略）ヘーゲルの止揚概念を貫いているのは、あらゆる差異、非同一性、他者性を自己同一的なひとつの全体のうちへと回収していく媒介の論理である。また運動が綜合というかたちで円環として終結するとする目的論的な思考である。これに対して、多くの現代哲学は、差異・非同一性・他者性の、廃棄も抹消も還元も不可能な（つまり、同一性の一契機へと止揚することのできない）あり方に着目しながら、いわば「和解」なき、あるいは終わりなき止揚を対置しようとしているように思われる。非同一性に定位するアドルノの「否定的弁証法」、絶対的否定性に定位するバタイユの「〈外〉の思考」（フーコーの表現）、未完結性・偶然性に定位するメルロ＝ポンティの「超弁証法」、全体性という名の閉鎖性に抵抗する解釈学的哲学の「経験の開放性」という概念、統合しえない複数性・異質性に定位するクリステヴァの「ポリローグ」、止揚に通じる媒介をことごとく停止させる〈脱構築〉の哲学などを例としてあげることができる。（p.317）

現代思想を読む事典 (講談社現代新書)

作者: 今村仁司
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 1988/10/18
メディア: 新書
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