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毎日新聞』の記事;


<ローマ字>表記で混乱 英語教科化、教員ら「一本化を」

毎日新聞 3/21(火) 12:19配信



 2020年度から実施される学習指導要領改定案に基づき、小学校のローマ字教育が従来の国語だけでなく、新たに教科化される英語でも始まる。ローマ字には「ち」を「ti」と表記する訓令式と「chi」と書くヘボン式があり、使い分けに混乱する児童もいることから、教育現場から「どちらかに一本化してほしい」との声も上がっている。

 ローマ字は小学3年の国語の授業で習うことになっている。読み書きのほか、情報通信技術(ICT)教育の一環として、コンピューターで文字を入力する操作を学ぶ。これに加え、20年度からは小学5、6年で教科化される英語でも「日本語と外国語の違い」に気付かせることを目的に、ほぼ母音と子音の2文字で構成されるローマ字について学習することになった。

 学校では現在、ローマ字を原則的に訓令式で教えている。しかし、名前や地名など実際の表記は圧倒的にヘボン式が多く、国際的な身分証明書となるパスポートもヘボン式だ。使い分けに困惑する児童もおり、教え方に悩む教員も少なくない。

 2月に新潟市で開催された日本教職員組合の教育研究全国集会でも、ローマ字について小中学校の教員から「いつヘボン式を教えればいいのか」「ヘボン式を教えると子どもが戸惑う」などの意見があった。兵庫県の中学校に勤務する女性教諭は「訓令式ヘボン式の2通りあるから子どもが混乱する。学校で教えるローマ字はどちらかに一本化すべきではないか」と話した。

 これに対し、文部科学省は「特段の理由がない限り、内閣告示で定められた訓令式で教えることになる」としている。

 ローマ字教育に詳しい清泉女学院大の室井美稚子教授(英語教育)は、訓令式について「日本語の音の大半を母音と子音の2文字で表すことができ、読み書きがしやすい」と利点を挙げたうえで「日本語の音に対応しているヘボン式と混同する恐れはある。訓令式は外国人に間違って発音されやすく、自分の名前や地名はヘボン式で書けるように指導する必要がある。自分で名刺を作製するなど楽しい活動を通じて練習させるべきだ」と指摘している。【伊澤拓也】

 【ことば】ローマ字

 ラテン文字で表記された日本語。16世紀にはポルトガル式、18世紀にはオランダ式のローマ字がつくられたが普及せず、幕末に来日した米国人宣教師ヘボンが考案した英語風のヘボン式が一般的に知られる。さまざまな形式が混在したローマ字を統一するため、昭和初期に文部省(当時)がほぼ母音と子音の2文字で構成する訓令式をまとめた。1954(昭和29)年の内閣告示で現在の訓令式のつづりを正しいローマ字として定める一方、ヘボン式の使用も認めた。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170321-00000044-mai-soci

日本語の羅馬字表記の問題については幾度か言及しているのだった*1。何度も書いたように、私はヘボン式が好きで訓令式が嫌いなのだが、最終的には個人の趣味の問題であり、両方教えて、どちらか好きな方を選ばせるということでいいんじゃないかと思ったりもした。しかし、羅馬字表記の混乱というのは決して「小学生」だけの問題ではない。はっきり言って、大人でも、日本語を羅馬字で正しく書けるという人はそれほど多くないと思う。ヘボン式でも訓令式でもない変な羅馬字になっちゃっているというのは屡々ある。それも、所謂低学歴層のみならず高学歴の人でも変な羅馬字表記をしている人は少なくない*2。まあ、東京大学を卒業したエリート(笑)で変な羅馬字を書くのは城内実くらいだろうけど(笑)。この変な羅馬字出現が学校文化における訓令式ヘボン式の併存と棲み分けを前提としていることは容易に想像できる。
「どちらかに一本化すべきではないか」という意見もあるようだけど、ヘボン式訓令式かという問題を考えることは、日本語表記の問題(所謂国字問題)や日本語が人類の言語のひとつであるという事実を考えることに通じる。羅馬字を仮名と同等な日本語表記として考えた場合、訓令式の方が合理的で整合的なシステムだといえる。これは仮名遣いにおいて正仮名の方が新仮名よりも合理的であるのとパラレルであろう。正仮名の合理性については丸谷才一先生の『日本語のために』や『桜もさよならも日本語』*3を読んでいただくとして、羅馬字を日本語の表記手段ではなく漢字や仮名が読めない外国語話者に対して日本語の発音を示す手段と考えた場合には、ヘボン式の方が優れているといえる。
日本語のために (1978年) (新潮文庫)

日本語のために (1978年) (新潮文庫)

桜もさよならも日本語 (新潮文庫)

桜もさよならも日本語 (新潮文庫)

さて、日本語に起源を持ちながら既にグローバル語或いは人類語の一部になっているかのように定着している言葉もある。ヘボン式訓令式の違いに関わるものとして、例えば、


karoshi(過労死)
Hiroshima(広島)
Fukushima(福島)
sushi(寿司)


これらを今更karosi、Hirosima、Hukusima、susiに戻すことはできるの? そういえば、現在の日本の首相はShinzo Abeなのだった。これもSinzo Abeにしてくださいと世界にお願いするのだろうか。