平成の女将軍?

産経新聞』の記事;


36歳女は芸名・如月優 妄想ふくらみ…「ノーブラで山本涼介君を追いかけっこ」「マスゾエ知事が私を可愛いって」
高田馬場駅異臭事件
2016.10.1 21:50
更新


 東京都新宿区の西武新宿線高田馬場駅で異臭が起き9人が搬送された事件で、駅ホームで乗客にスプレーを吹きかけたとして、警視庁戸塚署に傷害容疑で逮捕された職業不詳、塚越裕美子容疑者(36)が「私は芸能人です」と話していることが1日、分かった。塚越容疑者は「そんなことはしていないし、駅にも行っていない」と容疑を否認しているという。

 逮捕容疑は、9月28日午後5時35分ごろ、西武新宿線高田馬場駅ホームで、歩いていた男性会社員(32)の首に催涙スプレーのようなものを吹きかけ、全治3日間の軽傷を負わせたとしている。

 戸塚署によると、防犯カメラの画像や被害者らの目撃情報などから塚越容疑者が浮上。塚越容疑者のIC乗車券PASMOパスモ)には事件当日に高田馬場駅を利用した記録が残っていたほか、逮捕後の自宅から、防犯カメラに映った際に着ていたとみられる衣服なども押収したという。

 一方、塚越容疑者と同名のツイッターアカウントは、プロフィル欄に「如月優」との芸名を記した上で「アイドル女優です」と記載。著名人を「ブス」と指摘する投稿を度々行い、女優の内田有紀さんや高島礼子さんのほか、小池百合子東京都知事今井絵理子参院議員などの名前も挙げていた。

 芸能人との交遊を示唆する投稿も多い。

 今年6月には「ジャニーズの男の子とデートしてたの!」と投稿。また、9月の投稿では「昨日夏休み最後の日にノーブラの私を山本涼介君が追いかけて私もノーブラで山本涼介君を追いかけっこしたの」「何日か前に仮面ライダーゴーストの会見で彼氏の小池徹平君が山本涼介君たちに近づかないでって言っててくれたの」としていた。テレビ朝日系「仮面ライダーゴースト」に出演していた俳優の山本涼介さんに関する投稿とみられる。

 また、「昨日フライデーさんに取材してもらって記事を書いてもらったけど、auの私のメインのCMの出演料5億円が未払いで、7/7期日で支払われなければ労働基準監督署に相談します」「私が出演した花王のピュオーラのCMの出演料3億の支払いを7/7期日の書面で花王の社長に送ってます」など、自身の芸能活動を示唆する投稿もあった。

 9月には「私がDHCさんに言って作ってもらったプロデュースのプロテインダイエットのイチゴとベリーのムースで10日で14kg痩せたの」と報告していた。

 東京都知事だった舛添要一氏が辞表を提出した6月には、「ニューヨークタイムズでマスゾエ知事の記事で私の事可愛いって書かれたの」と投稿。天皇陛下天皇の位を生前に皇太子さまに譲られる「生前退位」が話題となった7月には「平成の次も私がナンバーワン美少女だから、陛下は安心して下さい!」と投稿していた。
http://www.sankei.com/smp/premium/news/161001/prm1610010046-s1.html

所謂妄想型統合失調症精神分裂病)の典型的な症状に「血統妄想」というのがある*1。〈私〉は実は高貴な血筋の者だという幻想。そのほかに、特別なミッションを与えられているとか、〈私〉はその特権性故に特権的な迫害を被っているといった妄想も含めて、誇大妄想と一括できるかも知れない。防衛的或いは攻撃的な目的のため自己(〈私〉)を嘘や真で盛っている裡に、その上塗りされた〈私〉に私が吞み込まれてしまうこと*2。悍ましい記憶が蘇っちゃうじゃないか、夢に出てきたらどうしてくれると叱られるかもしれないけれど、例えばKaetzchenという奴とか*3。ただ、私は全然〈私〉を盛っていません、すっぴんですと言える人は殆どいないだろう。とりわけ、特別なミッションやら特権的な迫害やらといった人はネット空間にはごろごろいそうな気がする。精神医療制度の網に引っ掛かるかどうかは別として、誰もが(ここでいう意味での)妄想を抱えている。それが或る閾を超えたときに、〈異常〉とか〈メンヘル〉とかと呼ばれるようになるわけだ。
塚越裕美子が統合失調症なのかどうかはわからない。しかし、上述したように、誇大妄想というのは〈自分〉を盛るという誰もが行っている心的実践の延長線上にある。これから、彼女は平成版〈蘆原将軍〉になれるのだろうかと思った。そういえば、田母神俊雄を蘆原将軍と比較するというとんでもない不敬行為を行ってしまったということがあった*4。私が将軍のことを知ったのは、種村季弘アナクロニズム』という本だったのだが、不敬行為の罰が当たったのか、種村季弘という名前を20分くらいに亙って、思い出せなかった。塚越裕美子を蘆原将軍の平成における後継者に推挙することを許していただけるだろうか。
アナクロニズム (河出文庫)

アナクロニズム (河出文庫)