「美化」?

上原善広『異邦人』*1から。
第5章「マフィア映画の虚と実 イタリア・マフィアとコルシカ民族主義」に曰く、


世界中の人たちにとって、マフィアのイメージといえば映画『ゴッドファーザー』に拠るところが大きい。マリオ・ブーゾ原作、フランシス・フォード・コッポラ監督によるこの映画は、「マフィア物」という一ジャンルをつくりだすほど大ヒットした。私もこの映画に魅了された一人で、もう幾度となく見ている。
しかし、例えば深作欣二の極道映画に描かれているヤクザが、実際のヤクザの姿とは違って美化されているように、『ゴッドファーザー』のマフィアも本当の姿とは似て非なるものだ。(p.183)
「マフィア」に対する一般のイメージに『ゴッドファーザー*2が与えた影響が大きいというのはその通りだろう。しかし、日本の場合、やくざを「美化」していたのは1960年代の(鶴田浩二高倉健を中心とした)所謂〈任侠映画〉であって、1970年代の深作欣二*3を中心とした所謂〈実録〉映画は、その代表作たる『仁義なき戦い*4のタイトルに表れているように、仁侠映画的な「美化」を払拭したところに存立していたといえるだろう。勿論、フィクションなので、何らかの(別の意味での)「美化」はあったにせよ。
ゴッドファーザー PartI <デジタル・リストア版> [DVD]

ゴッドファーザー PartI <デジタル・リストア版> [DVD]

仁義なき戦い [DVD]

仁義なき戦い [DVD]

さて、「ンドランゲタ」の拠点たる伊太利南部のカラブリア州について;

(前略)カラブリア州は、ちょうどブーツのようなイタリア半島のつま先にあたる。イタリアはミラノ、フィレンツェ、ローマ、ナポリくらいまではよく知られているが、南部は日本ではほとんど知られていない。
それも道理で、カラブリアはイタリア南部の中でも特に貧しい地域だ。失業者は、常に三割を超えている。まずレッジョ・カラブリアに入り、車を置いて散歩に出るが、埃っぽく暗い街並みで、印象に残るものは何もない。貧困層が多く娯楽も発達していないため、丸いボール一つで楽しめるサッカーが人気なのもよく理解できる。(p.192)

カラブリアではもう一つ「ブラティ」という村が以前から誘拐村として知られている。私はシチリアに渡る前に、本土南部のブラティ村に入ってみることにした。(p.193)

ブラティはカラブリアでも最も悪名高い村として知られている。バルバロ・ファミリーというマフィアの一族に支配されており、三〇〇〇人程度の人口だが、前科のある者が四〇〇人、実に成人男性の七割が犯罪者だという。八〇年代には副市長と市長がそれぞれ殺されており、その後、市長となった人物は前科もちだった。バルバロ・ファミリーは誘拐と麻薬の精製、密売を主なビジネスとして展開している。またブラティからはオーストラリアへの移民が盛んだったので、オーストラリアでも犯罪ビジネスを展開させているという。(p.195)
そういえば、伊太利の〈南北格差〉について初めて知ったのは、色川大吉ユーラシア大陸思索行』を読んだときだったか。