戸川昌子

朝日新聞』の記事;


シャンソン歌手で作家の戸川昌子さん死去

2016年4月26日21時37分

 シャンソン歌手で作家の戸川昌子(とがわ・まさこ)さんが、26日午前5時47分、胃がんで死去した。85歳だった。

 東京都出身。商社の英文タイピストとして働くかたわら、「銀巴里(ぎんぱり)」などのシャンソン喫茶に出演。楽屋などで書いた推理小説大いなる幻影」で1962年に江戸川乱歩賞を受賞した。続く「猟人日記」は64年に直木賞の候補になり、映画化され自身も俳優として出演して話題を呼んだ。

 67年に伝説的なサロン「青い部屋」を東京都内に開店し、「銀巴里」の流れをくむシャンソンのライブを催した。川端康成三島由紀夫寺山修司筒井康隆ら文化人が多数訪れ、2010年に閉店するまでサブカルチャーの発信地として若者にも親しまれた。今年7月に54回を迎えるシャンソンの祭典「パリ祭」を石井好子らと盛り上げるなど、存在感のある歌声で日本シャンソン界の中心として活躍した。

 息子の歌手NEROさんによると、5年前に末期がんの宣告を受け、闘病していた。今年3月に入院する前日まで、痛みをおして東京・渋谷のライブハウスのステージに立っていたという。
http://www.asahi.com/articles/ASJ4V5T4XJ4VUCVL01Y.html

数か月前に中村真一郎の短篇「背中」(in 『女体幻想』*1を読んでいたら、以下のようなパラグラフがあった;

その女は偶然に、当時、流行しはじめた深夜スナックで、そうした雑然とした場所には珍らしく、小粋な和服の姿を寄りそわせて停り木に席を占めたのだった。そして、自分が、当時著名だった、二代目の映画俳優の妻であると名乗り、それからいきなり、「あなたは女の喜ばせるヴェテランだと聞いたわ」と、無遠慮な言葉を、やかましい音楽と声高の会話のなかで、怒鳴り立てるように叫ぶと、視線を今、マイクに向ってシャンソンを歌っている、この店の気さくな女主人の方へ転じてみせた。この小説家としても売り出している歌手で、この店の人気者の女主人は、そうやって屡々独身者の彼に様々の型の数々の年齢の女性を、親切と好奇心から押しつけてくるのだった。そして、彼女の推薦する女性は、必ず後くされがないので、遊んでも傷つくことのないのは経験ずみだった。(p.56)
読みながら、「この小説家としても売り出している歌手」って戸川昌子のことだよねと思った。
女体幻想 (新潮文庫)

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