『塩一トンの読書』

須賀敦子*1『塩一トンの読書』の読書を読了したのは11月のこと。


塩一トンの読書



ユルスナールの小さな白い家
翠さんの本
一葉の辛抱
『インド夜想曲』と分身
3つの地球的感性の交錯
鋭い洞察もつキニャールの作品
魅惑的な「外国語」文学
写真の予想に導かれて
北の深さ、南のやさしさ
読書日記
わがこころの愛するものへ
麦畑のなかの赤いケシの花
私たちは他者に何を負っているのか


II
小説のなかの家族
作品のなかの「ものがたり」と「小説」――谷崎潤一郎細雪


III
『翻訳史のプロムナード』辻由美
『イタリア紀行』ゲーテ
『ニューヨーク散歩――街道をゆく39』司馬遼太郎
ジョルジュ・サンドからの手紙』ジョルジュ・サンド
『縛り首の丘』エッサ・デ・ケイロース
『気球の夢――空のユートピア』喜多尾道
『昨日のごとく――災厄の年の記録』中井久夫
ジェラール・フィリップ――伝記』ジェラール・ボナル
『トーマス・クックの旅』本城靖久
『夏少女・きけ、わだつみの声』早坂暁
『エジプトだより』ジャン・グルニエ
『本を書く』アニー・ディラード
『砂のように眠る――むかし「戦後」という時代があった』関川夏央
『プラートの商人』イリス・オリーゴ
『骨』フェイ・ミエン・イン
『戦争の悲しみ』バオ・ニン


解説――すべては昔々のものがたり(青柳祐美子)
文庫版解説――深くて広い読書(松永美穂

須賀敦子さんの死後に編集された文集。全体の構成は、大まかに、第1部が文学に関する相対的に軽めのエッセイ、第2部が本格的な文学批評、第3部が書評集、ということになるだろう。 松永美穂さん曰く、

「古典再読」「女性の生き方」「家族」と並んで、本書で扱われている書籍の多くに共通するもう一つのテーマを探すとすれば、「旅」ということになるだろう。書評された本のタイトルだけ並べてみても、『イタリア紀行』『ニューヨーク散歩』『トーマス・クックの旅』『エジプトだより』。アメリカの東海岸にある島の、ユルスナールの家を訪ねたときのエッセイもある(「ユルスナールの小さな白い家」)。旅する作家であるオランダのノーテボームの、『これから話す物語』がとりあげられているのも嬉しい(「北の深さ、南のやさしさ」)。ほかにも、言及されている作家の出身地や滞在地を地図上に記していけば、地球上のかなり広い部分がカバーされるだろう。現代ならば「エクソフォニー作家」という言葉で表される、母語以外の言語圏で生活し、執筆する作家たちの作品も取り上げられている(「魅惑的な『外国語』文学」)。二十世紀は、交通網や輸送手段の発達により、たくさんの人間の移動が可能になった時代だった。そのなかには、ビジネスや観光旅行や留学のほかに、移民としての移動もあり、戦争や飢饉による難民、あるいは亡命者としての移動もあった。移動する者のまなざしがとらえた、変貌しつつある社会、自らも言葉によって紡ぎ出していた、そうした越境の記憶/記録に、須賀敦子が強い関心を抱いていたことがわかる。(「文庫版解説――深くて広い読書」、pp.177-178)
イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)

イタリア紀行(上) (岩波文庫 赤405-9)

イタリア紀行 下 (岩波文庫 赤 406-1)

イタリア紀行 下 (岩波文庫 赤 406-1)