羽田by 多和田葉子

多和田葉子『言葉と歩く日記』*1からメモ。


朝、日本に着いた。ヨーロッパからの国際便ではほとんど成田空港に着く。羽田に着く便に乗ったことはこれまでなかったような気がする。海岸線ぎりぎりまでコンクリートの建物で埋め尽くされても、海はおとぎ話の中のような青さを失わずにいる。絵葉書から切り取ってきたような富士山も見えた。東京はどこまでも東京で終わりがなかった。こんなに人口密度が高くても生きていかれるものなのか、ふと不安になる。
飛行機には羽があるので、羽田という名前は空港にふさわしいが、田んぼを潰して作った空港が、なぜ田んぼが成ると書いて「成田」なのだろう。
羽田空港と浜松町をつなぐモノレールの駅名がわたしは好きで、以前それをとりいれて詩を書いたこともある。天空橋、整備場、昭和島、流通センター、大井競馬場前天王洲アイル。どれも想像力を刺激する名前ばかりだ。脳の中で冬晴れの空に橋がかかり、金属が淋しく光り、昭和のにおいが島となって遠ざかり、シャッターが開いて運送車が次々に流れ出てきて、それを追うように馬たちが駆け出し、テンノウズという不思議な図が浮かびあがる。(pp.102-103)
See eg. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120111/1326208449