「悪魔」と「三次元」

ピサへの道 七つのゴシック物語1 (白水Uブックス 海外小説 永遠の本棚)

ピサへの道 七つのゴシック物語1 (白水Uブックス 海外小説 永遠の本棚)

イサク・ディネセン「猿」(in 『ピサへの道 七つのゴシック物語1』*1から。
「セーヴェン修道院」のカティンカ院長の甥のボリスに対する科白。


「ああ」院長の声には力がこもっていた。「十七世紀にここで牧師をつとめられたサアス博士はこういう説を主張しておられましたよ。大天使の墜地獄が起こるまで、世界はまったいらで、神様の背景の垂れ幕だった。三次元をつくりだしたのは悪魔なのだと。この説に従えば、『直線』、『方形』、『平面』などいう言葉は高貴なものです。ところがりんごは球体でしょ。それが私たちの祖先の罪のもとになった、つまり、神のまわりを一周してみようとしたわけ。私としては、彫刻よりも絵画のほうがずっと好みにあいますよ」(p.170)
この修道院は、「貴族の家に生をうけた未婚の婦人や未亡人たちが一生の秋と冬をすごすための場所」(p.161)としての「修道院」。多和田葉子『尼僧とキューピッドの弓』*2の舞台もそうだった筈。