中井英夫その他(メモ)

『読売』の記事;


中井英夫の乱歩への手紙 初公開

小樽で来月 「虚無への供物」の完成を報告

 ミステリー史に残る名作「虚無への供物」の作者、中井英夫(1922〜93年)が同作の完成を江戸川乱歩に報告する手紙が初公開される。

 50年前の手紙で乱歩の遺品の中にあったが、一般にはほとんど存在を知られておらず、敬愛する大作家に自信作を読んでもらいたい中井の恋文のような思いがにじむ。11月9日から北海道小樽市小樽文学館で行われる「没後20年 中井英夫展」で展示される。

 64年に講談社から刊行された「虚無――」は、密室殺人事件や推理合戦などを幻想的に描き、日本の推理小説を代表する長編。中井は塔晶夫の筆名で62年の江戸川乱歩賞に前半の第2章までを応募したが次席止まり。選考委員の乱歩は高く評価する一方、委員の名前や作品名を織り交ぜた同作を「冗談小説」とも評した。

 手紙は塔晶夫名義で、63年2月の日付。同作を完成させた中井は編集者に後編の原稿を渡したことを報告し、「先生お一人に見ていただければと考えておりました作品(中略)ぜひ御眼通しを」と思いを吐露。「現実と寸分隙のない形での非現実世界の犯罪を(中略)お眼にかけられるかと」と、自負もつづっている。

 中井英夫の助手で文筆家の本多正一さんは「敬愛する作家に対する恋文と同時に挑戦状のような内容だ。前半を『冗談小説』と読まれてしまい、ぜひ乱歩に完成した作品を読んでほしいという思いが感じられる」と話している。
(2013年10月22日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20131022-OYT8T00398.htm

虚無への供物 (講談社文庫)

虚無への供物 (講談社文庫)

今年は中井英夫の20回忌だったんだ。中井の死を巡っては、その導師を務めた福島泰樹の『弔い 死に臨むこころ』をマークしておく。ところで、何故小樽で中井英夫なのか。
弔い―死に臨むこころ (ちくま新書)

弔い―死に臨むこころ (ちくま新書)

次は水上勉について。
福井新聞』の論説;

帰雁忌 「水上文学」触れる機会に

(2013年10月22日午前8時17分)


 おおい町出身の直木賞作家、水上勉さんを追悼する帰雁忌(きがんき)が26日、同町岡田の若州一滴文庫で開かれる。「雁の寺」や「越前竹人形」「はなれ瞽女(ごぜ)おりん」など数々の名作を残し、2004年に亡くなった水上さんの業績と遺徳をしのぶ。ふるさとを深く愛し、小説やエッセーには故郷の風景が多く出てくるなど、水上文学の原点は若狭にあるといっても過言ではない。この機会に水上さんの作品に触れてみよう。

 若州一滴文庫は、水上さんが「故郷にささやかな文化の一滴をお返ししたい」と1985年に私財を投じて創設。2000年に一時閉館したが、03年に土地、建物が旧大飯町に寄付され、町は指定管理者としてNPO法人「一滴の里」に運営を委託することで再開された。それ以降、同法人が水上文学を顕彰するための活動をはじめ、資料の発掘、収集に取り組んでおり、その一環として毎年10月に帰雁忌を開催している。

 言うまでもないが、社会の底辺で生きる人たちに目を向けた水上さんの作品は日本の戦後文学に大きな足跡を残した。水上さんが残した資料は、日本文学史上の財産であり、地元おおい町の“宝”でもある。水上さんの功績を、長く後世に伝えるためにも同法人の活動は意義があるといえよう。

 同文庫には、水上さんの約2万冊の蔵書やゆかりの作家の絵画などを展示保管する本館のほか、水上さんが作家活動と同様に心血を注いだ竹人形文楽の人形約60体と、頭(かしら)約250点を展示する「竹人形館」、その竹人形文楽を上演する「くるま椅子劇場」がある。同劇場の舞台後方、ガラス越しに広がる借景の竹林が美しく、まさに一幅の絵のような趣がある。帰雁忌はこの会場で行われる。

 当日は、大飯中の生徒が、水上さんの「停車場有情」を朗読して幕開け。「作家の幸福について」のテーマでシンポジウムが開かれる。文芸雑誌「群像」で編集長を務めた大村彦次郎さんが基調講演する。大村さんのほか、画家の渡辺淳さん(おおい町)、写真家の水谷内健次さん(坂井市)、県立図書館の渡辺力主任がパネル討論。若狭の人と風景を描いた水上さんの作家としての実像に迫る。

 同文庫のパンフレットに、水上さんは「本をよむことが出来人生や夢を拾った。君もこの中の一冊から何かを拾って人生を切りひらいてくれたまえ。たった一人の君に開放する」との一文を寄せている。また本館入り口には「佐分利川辺の子らへ」と題した直筆のメッセージも掛かっている。いずれも未来を開く子どもたちに、優しく語り掛けるような文章だ。

 当日は入館が無料となる。一度足を運んでみてはどうだろう。今まさに読書に適した季節。秋の一日を同文庫で過ごし、水上さんの作品を思い浮かべるのもいいだろう。作家の偉大な業績が伝わってくるはずだ。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/46470.html

水上勉*1の命日を「帰雁忌」ということを初めて知る。