「昭和65年」

『産経』の記事;


「昭和65年製」の硬貨使う 模造1万円で詐欺容疑 茨城県つくば市
2012.5.22 18:18 [詐欺・出資法違反]


 茨城県警つくば中央署は22日、コンビニで1万円記念硬貨の模造品を使ったとして、詐欺の疑いで、同県つくば市高野、建築作業員、長谷川三郎容疑者(47)を逮捕した。表面に「昭和65年」と記されていたことから、売上金を確認した男性店長(60)が不審に思い、発覚した。

 逮捕容疑は21日午前11時40分ごろ、つくば市内のコンビニで、1万円記念硬貨の模造品を使って清涼飲料水(147円)を購入し、お釣りをだまし取った疑い。同署によると、長谷川容疑者は「(硬貨を)使えると思った」と容疑を否認している。

 硬貨には年号のほかに、上部に穴が開いているなど不自然な点が多くあった。防犯ビデオの映像から長谷川容疑者が浮上した。造幣局大阪市)によると、記念硬貨は1964年の東京五輪から製造され、額面は最高10万円。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120522/crm12052218200025-n1.htm

この記事を読んで先ず疑問に思ったのは、「記念硬貨」って何の記念硬貨なんだよということ。罪名が偽造通貨行使ではなく「詐欺」になっており、行使されたものも偽造品ではなく「模造品」である。つまり実在しない「記念硬貨」ということなのか。財務省によれば、額面1万の「記念硬貨」は、昭和天皇在位60周年(1985)、長野オリンピック(1997)、今上天皇在位10周年(1999)、日韓ワールドカップ(2002)、愛知万博(2005)、今上天皇在位20周年(2009)である*1。つまり〈子供銀行券〉を行使したのと同じことなのか。因みに、産経記者の文章に文句をつけると、「硬貨」を括弧もつけないで剥き出しで使っているのは拙いといえる。そもそも「硬貨」ではなく、偽造でさえないのだから。括弧で括るか、それとも


硬貨(?)
硬貨(らしきもの)


といった表現を使うべきだろう。
それから、産経記者が(ジャーナリストとして)駄目なのは、この硬貨(らしきもの)を実際に受け取った筈の店員のコメントを取っていないことだろう。その店員はそれを受け取って、


(バイト敬語で)1万円からお預かりします。
9000と853円のお返しです。お確かめ下さい。


とクールに言ったのだろうか。額面1万の「記念硬貨」(らしきもの)を受け取ったら、ふつう吃驚するんじゃないだろうか。因みに俺は、額面1万の記念硬貨の実物を実際に触ったことは勿論、見たことも殆どない*2
「昭和65年」。これについては、昭和天皇が1989年1月に死去しなかったパラレル・ワールド、バブルも崩壊せず、伯林の壁も崩れず、蘇聯という国家もあり続けている世界というごくつまらない妄想をしてしまった*3。まあ世の中には、エルヴィス・プレスリーの生存を信じていたり、アポロ11号の月着陸の事実を否定している人*4もいるわけで、昭和天皇の死という事実を信じない人がいたとしても不思議なことではない。

*1:http://www.mof.go.jp/currency/coin/commemorative_coin/kinenkaitiran.pdf

*2:額面1万の記念硬貨は、最初の昭和天皇在位60周年を除いて、最初から額面以上のプレミアをつけられて発売されたものである。

*3:その世界では、当然、美空ひばり手塚治虫も生き続けているのであろう。

*4:Eg.http://blog.goo.ne.jp/syokunin-2008/e/e3686a595e2899a8dc3b8f599b1b7965 Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090723/1248363299