承前*1
陰謀理論と認知的不協和*2との関係。また、人種的ステレオタイプとの関係。
Francis Wheen Strange Days Indeed*3によれば、IRAは1974年10月から11月にかけてイングランド各地で集中的に爆弾テロを行い、一挙に数十人を殺した。このことは多くのイングランド人にとって全く想定外のことだった――”The lethal efficiency of the IRA's attacks contradicted everything the English had assumed about Guiness-swigging Paddies.”(p.85) というのは、当時英国社会ではアイルランド人=身なりの汚い酔っ払いの怠け者というステレオタイプが根強く定着していた(pp.79-80)*4。イングランドに潜入した4人のテロリストに対するIRA本部からの指令は先ず「きれいな身なりをする(to dress smartly)」だった(p.85)。酔っ払いの怠け者があんな効率的にテロを起こすことなんかできっこないよという疑念は容易に陰謀理論を呼び起こす。(酔っ払いの怠け者ではなく)背後にいるもっと悪賢い黒幕がテロのプランを立てている筈だと。こうして黒幕として浮かび上がったのはヴァティカン(カトリック)と蘇聯(共産主義者)。また、問題はこの陰謀理論がパブでの会話レヴェルの話ではなく、(大衆紙とはいえ)Daily Expressによって煽られたということである(pp.85-86)*5。人種的偏見と認知的不協和と陰謀理論との関係について以前、
と書いたことがあった。
Mixiで誰かが言っていたように思うのだけれど、米国人がこの「陰謀理論」を信じるというのは何処か理解できそうな感じがする。屈折したナショナリズム。つまり、よりによって遅れたアラブ野郎に紐育と五角大楼をやられたということだと、世界に冠たる米国人のナショナリズム的なプライドは損傷される。そこで、米国政府の自作自演ということにすれば、少なくとも後進国、〈アラブ〉にやられたという屈辱は免れることができる。そもそも政府の権威はとうの昔に失墜している。政府を犠牲にしてネーションを救い出すこと。どうなのだろうか。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070930/1191131395
Strange Days Indeed: The Golden Age of Paranoia
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*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110426/1303840125
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070328/1175084468 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090202/1233596155 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100222/1266853963 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100322/1269200009
*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101212/1292128816
*4:社会人類学の長老エドマンド・リーチ先生はアイルランド人に関するエスニック・ジョーク本の書評という仕方で1970年代のアイルランド人に対する人種的ステレオタイプの考察をしている。Edmund Leach “The Official Irish Jokesters” New Society 20 December 1979
*5:Daily MirrorもIRAが「鉄のカーテンの向こう側の」ヒットマンを雇ったという憶測記事を掲載している(p.86)。勿論、事実として、IRAがバスクのETAと相互に連帯し、ETAから武器や資金の供与を受けていた、また伊太利の左翼組織Lotta Continua(継続闘争?)の仲介でリビアのカダフィ政権やPLOから武器の供与を受けていたという事実はあるのだが(ibid.)。