林行止「OK従何而来」『上海書評』2011年2月27日、p.7
Allan Metcalf OK: The Improbable Story of America's Greatest Word(Oxford University Press, 2010)という本の書評。
OKという英単語は英語なんてできないよという人でもその意味や用法を心得ている筈だ。まあ、アルファベットがわからない学生さん(笑)*1がOKを知っているかどうかはわからないけど。しかしながら、Allan MetcalfによればOKの語源については、諸説紛々の状態である。Dictionary of Word Origins*2が挙げている語源は、19世紀米国でAll correct(全て正しい)がOrl Korrect(Korrekt)とミススペリングされ、さらにOKと略されたというもの。また、1836年の大統領選挙で紐育州出身で民主党のMartin Van Buren候補が自らの故郷からOld Kinderhookという標語を作り、OKと略してキャンペーンで使用した。但し、これは既にOK=All correctを前提にしている。他方、Oxford English Dictionaryが語源の候補として挙げているのは、
希臘語のola kale(kala)(全く問題なし)
スコットランド方言のoch aye
北米先住民Choctaw語のokeh(まさにかくの如し)
ハイティの仏蘭西語au quai(波止場へ行く)
Obediah Kelly(人名。この人は鉄道会社で貨物の管理をしていて、チェック済みの貨物に自らのイニシャルOKを印していた)
H. Hitching The Secret Life of Words: How English Became Englishという本では、OKとヴードゥー教の関係を示唆しているらしい。それによると、西アフリカのザンビアからセネガルにかけて住むWolof人の言葉Waw Kay(問題なし)がOKの語源だということになる。また、Hitchingによれば、英語のuhやuh-huhもWolof語に由来しているのだという。また、OKはボクシング用語のKO、つまりknock outが逆さまになったものだという説もある。
さて、OKは米語ではあっても英語ではないのかも知れない。ロバート・アルトマン*3の、1930年代の英国貴族社会を舞台にした映画『ゴスフォード・パーク』で、映画の中の唯一の米国人であるモリス・ワイズマンが伯爵夫人に”Are you OK?”と尋ねたが、彼女は意味がわからず、”Am I what?”と訊き返す。しかし、車に同乗していたメイドはその意味がわかり、奥様に代わって返事をした。これによれば、第二次世界大戦前の英国の上流階級ではOKは通用していなかったが、下の階級では通用していたということになる。
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