三者三様など

大野左紀子ラッセンとは何の恥部だったのか」http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20080421/1208731778


2008年に書かれたものだが、最近になってまた注目を集めているようだ*1。まあ大野さんのエントリーにはこのようにロング・テイルなものは少なくない。
ラッセンの絵が売り方も内容も含めて、「日本人のヤンキー心に訴えた」ということではないか」という。
先ず「ヤンキー」*2という言葉が多義的だということはある。大野さんはナンシー関を援用して、「いわゆる暴走族系の人やキンパツの人だけではなく、「どんなに頑張っても今いち垢抜けず安っぽい趣味に染まりやすい田舎者」」も含むけっこう広い意味で「ヤンキー」という言葉を使っている。それも問題なのだが、「ラッセン」の消費のされ方で、所謂〈オリジナル〉作品を大枚叩いて買ってしまった人と、ジグソー・パズルなどのセコンダリーな商品を買うに止まった人とは区別しなければならないと思う。後者が「ヤンキー」と関係ありというなら、頷いてしまわないこともないのだが。でも前者はどうか。「ヤンキー」というのはオタクは勿論のこと、生半可な知識分子なんかより地に足が着いているように思うのだ。大野さんへのメイルに、


今でこそ、「ああ、ラッセンね」のオチがついたので、そうそう強引な客引きも見ませんが、

当時(15年くらい前?)は、23時以降の繁華街の客引き並の何か法律にひっかからないのか?

というくらい強引な若いおねーちゃんの客引きがあり、

店舗(自称画廊)も表通りにガツーンと面して建っていました。

その頃は、ブログはまだなくて、さるさる日記とかがメインだったと思うのですが

文章から絶対あんた寂しい10代過ごしたよねと思われる男子が

急に若くてキレイ目なおねーちゃんに積極的に迫られる話があれば

ヲチってる人間が皆「ああ、浄水器かイルカの絵ね」という目で生暖かく見ていたものです。

今では「何でか、宝石とか浄水器とかイルカの絵とか買っちゃって」その後

女と連絡が取れなくなるという、暗い笑いの定番として落ち着いたラッセン

という一節がある。私の学生時代にはリンガフォンというのもあったけれど。知人は「若いおねーちゃん」にリンガフォン買わされたけれど、しっかり「おねーちゃん」をホテルに連れ込んでやったと言っていた。その後彼の英語が上達したのかどうかはわからないけれど。それはともかく、こういうのに「ヤンキー」はあまり引っかかりそうにない。上では、「絶対あんた寂しい10代過ごしたよねと思われる男子」とあるけれど、私が思うに〈中途半端〉な奴が引っかかった。オタクは「ラッセン」なんかに萌えることはないだろうし、文藝青年なら「ラッセン」なんて馬鹿にするだろう。パンクでも。つまり、「ヤンキー」にもオタクにも文藝青年にもパンクにもなりきれず、文化的な居場所が定まらない奴。〈中途半端〉な奴というのは普通の奴ということである。そうすると、普通の奴って誰だということになって、話はまた振り出しに戻ってしまうのだが。栗原裕一郎氏は「推測だが、時あたかもマルイの赤いカード全盛期、ああいうインテリア・アートを買っちゃう層は、マルイでDCブランドとか買い物する層とけっこう被ってたんじゃないか」という *3。寧ろこちらの方に頷きかけたのだけれど、コム・デ・ギャルソンやヨウジ・ヤマモトのモノ・トーンと「ラッセン」はどうも結びつかない。まあ本当のファッショニスタは「マルイ」へは行かないだろうけど。そういう意味で〈中途半端〉な奴とは言える。
栗原裕一郎氏の問題点は、ラッセンヒロ・ヤマガタ*4とトーマス・マックナイトを一括りにして、「デオドラント文化」に落とし込んでいることだろう。というか、同様に「絵画商法*5ということが適用されるにせよ、この3人の雰囲気ってそれぞれ両立し難いほど違っているんじゃないかと思う。ラッセンは(良くも悪くも)密度が濃いというかホットであるのに対して、トーマス・マックナイトは密度が薄いというかクールな感じがする。1991年の時点で「「おしゃれ」なものというイメージで流通していた」というけど、それも宜なる気がする。何故かといえば、アルプスの北側のヨーロッパ人に端を発し、米国人も日本人も共有する〈地中海幻想〉に合致するからだ*6
海豚といえばリュック・ベッソンの『グラン・ブルー』だけど*7、そのファンとラッセンのファンというのは被っているのかどうか。
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ところで、大野さんは「ヤンキー」と「ファンシー」の関係を示唆しているのだけれど、これももっと詰めていただきたい論題ではある。マルク・シャガールの絵とか、「ファンシー」として人気があったのかどうか。そういえば、降旗康男の『冬の華』(脚本は倉本聰)に出てくる組長(藤田進)はシャガールのコレクターという設定ではあった。「ヤンキー」ならぬへヴィメタと「ファンシー」との関係で言えば、レインボーの『銀嶺の覇者』のジャケットの〈ギターのお城〉というのは昔からよく話のネタになっていた。

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銀嶺の覇者

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