くまった?

ちょっと前に、


ところで、都市化が進むと否応なく〈自然〉と触れ合ってしまう。熊の住宅地出没が増えるとか雀蜂の巣の出現とか。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101017/1287288371
と書いたのだった。
47NEWSの記事(Via: http://d.hatena.ne.jp/tonmanaangler/20101030/1288470382);

親子グマ射殺に抗議相次ぐ 困惑する福島県西会津町

 全国でクマの出没が相次ぐ中、親子グマ2頭を射殺した福島県西会津町に「かわいそう」と抗議する電話やメールが相次いでいることが28日、町への取材で分かった。町はクマよけ装置設置など対策を進めているが、入り込むのを防ぎきれない。住民の安全確保と野生動物保護の間で山あいの町は困惑するばかりだ。

 西会津町では18日夕、住宅の庭にある柿の木で親子グマ3頭が見つかった。人の出入りが少ない夜間という事情も考慮し、町は山へ逃がすことを最優先。柿を食べ、19日未明に木から下りた3頭を誘導して山林に追い返した。町には「良かった」と対応を評価する声が寄せられた。

 23日朝には住宅近くの空き地で、18日とは別とみられる親子グマが柿の木にいるのを住民が発見。町は住民の安全を優先し、地元猟友会会員が2頭を射殺した。町には23日から抗議が相次いでいる。件数は明らかにしていない。
2010/10/28 19:19 【共同通信
http://www.47news.jp/CN/201010/CN2010102801000582.html

これに対して、双風舎の谷川さんは「クマが殺されて、噴きあがる人々」で、「抗議」を批判する*1。これに対して、上掲の「国家鮟鱇」氏は「言いたいことはわかる」と前置きしつつ、谷川さんの論の勇み足を批判している。「抗議相次ぐ」といってもいったい「抗議件数がわからない」とか。「抗議」の根拠も色々ある筈なのに、それを一括りにしていいのかとか。さらに、「一部の極論を取り上げて悪印象を増幅させようとしている」と。
また、北海道斜里町の問題を採り上げたhttp://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/Asay/20101031/1288453644に対しても、

こっちは北海道斜里町のケースで「電話とメール合計100件近く」とありますね。こういうのってネットの炎上と同じで、100件もコメントがあったら、受けた方は凄いたくさんの反応があったと思うかもしれないけれど、不特定多数の中の100件であって、話題になればそれぐらいの反応があるのは、むしろ自然なことだと思うんですね。犯罪予告とか、嫌がらせなどの悪質なものは駄目だけれど、善意でやっているものについてはどうしようもないんじゃないですかね。
と述べている。
「国家鮟鱇」氏は熊を殺すことの是非には関わっていない。勿論、熊を殺すなにしても、熊を殺すのは仕方ないにしても、双方にそれなりの理はあると言えよう。以下、そのどちらでもない、或いはどちらの立場でも無視されているように思う視点から無駄口を叩くことにしたい。
北海道の羆についてはよくわからないのだが、少なくとも本州の月ノ輪熊についていえば、最近熊が出没して問題になっている地域にとって、熊というのはたんなる脅威ではなく、かつては熊のおかげでけっこう儲けさせてもらったこともある筈だ。以前も書いたのだが、私の信州の田舎(飯山)では昔冬になると熊を撃っており、1頭か2頭撃てば一冬を遊んで越せたという*2。こういう熊猟は熊の個体数の間引きとして機能していたといえるし、さらに熊に対して人間の怖さを学習させ、安易に人里に近づくことを抑制していたともいえるだろう。勿論、最近の熊出没の増加には気候変動や乱開発という背景があるわけだが、過疎化や高齢化*3による狩猟文化の衰退というのが無関係だとは言えないのではないか。ところで、私が気にしているのは、〈害獣〉として〈駆除〉された熊はどう処分されるのかということ。熊の胆からは薬が採れるし、また熊の手という食材もある*4。殺される熊が可哀そうとか熊に襲われる住民が可哀そうということを一旦離れて、資源としての熊という視点から、自然資源の適切な管理の問題としてこの問題を考える必要があるのではないか。
たしか2005年の春だったか、やはり熊出没がメディアを賑わせていたのだが、故米原万理さん*5が某週刊誌のコラムで、熊を捕まえて藝を仕込んで、サーカスで村発しをすべしと書いていた。いったい調教師をどこから連れて来るんだよということはあるけれど、米原さんはサーカスの本場露西亜に太いコネを持っていた人だったのだ。これも〈資源としての熊〉ということではあろう。

さて、熊の胆の薬効成分がウルソデオキシコール酸 (UDCA)であることはかなり早くから知られていた*6。1954年には日本で鶏の胆汁からUDCAを合成する技術が開発されているが、やはり熊に限るとという信仰が強く、なかなか普及しなかった。1984年に北朝鮮で熊を殺さないで胆汁を採取する技術が開発された。熊の腹に穴を開けてカテーテルで胆汁を採集するというもの。この技術は瞬く間に東亜細亜一帯に広がった。しかし、韓国では1992年に禁止され*7、ヴェトナムでも2002年に禁止され、今や生きた熊からの胆汁採取が合法的なのは中国だけになった*8。国際的にだけでなく中国国内でも問題視され、四川省には「亜州動物基金*9四川省林業庁と共同で、救出された熊のリハビリ施設「四川龍橋黒熊救護中心」を設置している。熊を殺す・殺さないということも、このような状況を勘案しつつ考えるべきなのではないか。


ところで、韓国で熊ではなく牛の胆汁から合成されたUDCAが筋萎縮性側索硬化症(ALS)*10の進行を緩和する薬として使われていることを知る*11

*1:http://sofusha.moe-nifty.com/blog/2010/10/post-6468.html

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090312/1236788552 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100313/1268459583

*3:数年前に熊を撃ちに出陣したどっかの猟友会の映像をTVで見たのだが、吃驚したのは猟友会の高齢化ぶりだった。少なくとも青年はいなかった。

*4:中国では熊を殺すことが禁止されているので、満漢全席の熊の手を食べられるのは日本でしかない。

*5:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060529/1148917738

*6:以下、文丹尹「披“肝”瀝“胆”? 黒熊的自由之路」(『02』2010年2月号、pp.124-127)に依拠している。

*7:韓国における野生の熊の生息数は30頭を割っているといわれる。

*8:肝心の北朝鮮でどうなっているのかはわからない。

*9:http://www.animalasia.org/

*10:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100818/1282103324

*11:http://style-tk.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-49b0.html