1998年は日本の年間自殺数が初めて3万人を突破した年*1。特に「経済生活問題を原因とする自殺」が前年比70.4%も増えている。この背景には、橋本龍太郎内閣による緊縮財政や消費税引上げによる不況があった。さて、これについて、山田昌弘氏は「これも、失業や倒産などによって、「サラリーマン―主婦型家族」の生活基盤が維持できなくなった時、夫が自殺して保険金を残せば、残された妻子の住宅や生活が維持できるという思いがもたらした結果の数字というのは、言い過ぎだろうか」と述べている(『希望格差社会』、p.178)。勿論、これを実証するためには、家族構成別に自殺者を比較し、既婚者は単身者よりも、子どもがある人はない人よりも自殺率が高いことを立証しなければならないが。山田氏は続けて、「ちなみに、スウェーデンでは、自殺では保険金がおりないので、不況と自殺率には相関関係がない」と述べてはいる(ibid.)。山田氏の解釈を真に受けると、(最近巷で嘆かれているように)家族の絆が弱体化しているということはないと言うことができるだろう。何しろ、自らの生命を断ってまでして、「妻子」を救おうとしているのだから。経済的な苦境にあるからこそ発現される家族愛!
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)
- 作者: 山田昌弘
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集団本位的自殺の支配的なところでは、人はいつでも生命を放棄する用意をしているが、そのかわり他人の生命をそれ以上に尊重しようとしない。反対に個人的人格にとくに高い価値を与え、それにまさるどのような目的も認めないところでは、他者の人格も尊重される。このように人格が尊重されていると、同胞の人格を傷つけるものでさえ、すべて苦悩の源となる。(p.291)
- 作者: デュルケーム,宮島喬
- 出版社/メーカー: 中央公論社
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デュルケームのaltruismについては、
Norman Dubeski “Durkheim's Altruism As The Source Of His Social Holism: A Discussion Of The Viability Of A Social Basis For Moral Principles” Electronic Journal of Sociology 5-3, 2001
http://www.sociology.org/content/vol005.003/dubeski.html
という論文を見つけたが、まだ詳しく読んではいない。
ところで、『毎日』の記事;
デュルケームは軍人の自殺を「集団本位的自殺」として考察しているが(p.275ff.)、この記事だけでは、これら自衛官の自殺が「集団本位的」なのかどうかは判断はつかない。
自衛官:後絶たぬ自殺 一般職国家公務員の1.5倍防衛省・自衛隊の自殺者が毎年、100人近くに上り、高止まり傾向に歯止めがかからない。04〜06年度は3年連続で100人に達し、07年度以降は80人台で推移しているものの、08年度の自殺者83人を10万人あたりで換算すると33人となり、一般職国家公務員10万人あたりの自殺者22人に比べ1.5倍の高率となっている。背景には、厳しい規律や生活環境、拡大する海外派遣による負担増なども指摘されるが、効果的な対策は見いだせないのが現状で、同省は頭を悩ませている。【樋岡徹也】
防衛省によると、自衛官・事務官らの自殺者は94〜97年度は40〜60人台だったが徐々に増加し、04年度に100人、05年度と06年度も101人に達した。09年度も86人に上り、内訳は▽陸上自衛官53人▽海上自衛官15人▽航空自衛官12人▽事務官ら6人。推定される原因は、職務18人▽精神疾患、借金各16人−−などとなっている。
自衛官らの自殺の多い背景として、ある幹部自衛官は「駐屯地などに住み込み、規律も厳しい。海外派遣など新たな任務もストレスになっている」と分析する。命令に対する服従が根幹の自衛隊組織では、上官の指導という名の「いじめ」が見受けられるケースもあるといい、海自佐世保基地(長崎県)の護衛艦「さわぎり」で99年、男性3曹(当時21歳)が艦内で首つり自殺した問題では、上官の言動が原因として国に350万円の賠償を命じる判決が確定した。
警察庁の09年統計によると、自殺者数は3万2845人で12年連続で3万人を超えた。国は10〜16日の1週間を「自殺予防週間」として各種啓発活動を行っており、防衛省も、隊内では話しにくい悩みに対応するため民間カウンセラーを招いたり、24時間対応の電話相談窓口を開設するなどしているが、「理由は複合的なため、日常的に隊員の心情把握を徹底するしかない」(同省幹部)のが現状だ。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100915k0000e040049000c.html