『琉球新報』の記事;
さらに詳しい経緯について、『沖縄タイムズ』と『読売』の記事;
国立民博の展示文削除 「軍関与明らか」沖縄戦体験者ら反発2010年3月9日
2010年3月9日
千葉県の国立歴史民俗博物館が沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)をめぐって当初用意されていた旧日本軍の関与を示す記述を取りやめたことについて、県内の体験者は「残念」と悔しさをにじませ、沖縄戦に詳しい識者らは「信頼裏切る行為」「有事法制下で歴史の改ざんが進んでいる」などと一様に批判した。
渡嘉敷村で「集団自決」を体験した吉川嘉勝さん(71)=同村=は「残念だ。体験者として旧日本軍がさまざまな状況で関与があったのは明らかで、研究者の多くが証明している。渡嘉敷の場合、日本軍が住民を死へ誘導した、分かりやすく、象徴的な事例なので、孫たちのためにも(分からない研究者は)ぜひ渡嘉敷を再度考察してもらいたい」と言葉に悔しさをにじませた。
沖縄戦に詳しい石原昌家沖縄国際大教授は「『集団自決』という言葉はそもそも殉国死を意味する軍人賛美の言葉で、それを住民に使い続ければ真実を誤らせる結果を招く。軍命の有無よりも『投降勧告ビラを所持する者は銃殺する』など住民に投降を許さず死に追い込んだ沖縄戦の本質を表す史料が厳然とある」と指摘する。歴史教科書問題の博物館への影響について「今、有事法制下の中、軍民一体の意識形成が各地で盛んだ。その状況に沿った歴史の改ざんや捏造(ねつぞう)が進行している」と分析した。
高嶋伸欣琉球大名誉教授は「沖縄の県民大会などの動きを知って記述を削ったのならば犯罪的行為だ。この博物館は学習の場として信頼されてきたが、その信頼を裏切る行為だ。議論の最中ならまだしも、現在、旧日本軍の深い関与があったことは社会的到達点。それをまったく配慮しない無責任な展示だ。事なかれ主義のような記述の削り方で、話にならない」と批判した。
松田寛高教組委員長は「戦後教育は事実からしかスタートしない。旧日本軍の関与は事実として既に証明されている。事実をねじ曲げるのではなく、認めるべきだ」と強調した。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-158960-storytopic-1.html
軍関与の記述 削除 「集団自決」国立歴史博物館
検討委に慎重論社会 2010年3月9日 09時49分
【東京】16日にオープンする国立歴史民俗博物館(千葉県)の新常設展示室「現代」で、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」の記述について、内部の検討委員会での慎重論や同問題をめぐる裁判が係争中であることなどを理由に、日本軍の命令や関与などを削除して展示することが8日分かった。
沖縄戦は広島、長崎の原爆投下とともに「大量殺戮(さつりく)の時代」をテーマにした展示で、パネル3枚で説明される。同博物館によると、沖縄戦の「集団自決」の説明で、軍関与を明記せずに「集団自決」が強いられた―などと表記している。
当初の説明では、日本軍の指示や命令などが住民の意思決定を左右したなどの記述があったという。内容を検討する展示プロジェクト委員の中で、住民に自決を命じたという記述で名誉を傷つけられたとする旧日本軍の元戦隊長やその遺族が起こした訴訟が最高裁で係争中であることなどを理由に挙げ、変更を求める意見が出た。同博物館は校正の最終段階で、指示や命令の記述を削除した。
平川南館長は「社会的に意見が分かれることは今後の研究に託さざるを得ない。最高裁の判断が示された段階で内容を検討し、改善が必要であれば改善する」とした。
常設展示室「現代」は1930〜70年代までを対象に、戦争と占領、高度成長の時代の人々の生活と文化をベースに多角的に展示する予定。国立の歴史博物館で初めて日中戦争や太平洋戦争などの歴史解釈に取り組むとして注目されている。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-03-09_4268/
『読売』の記事は一方の意見のみ引用している点で公平さに欠くといえるだろう。また、その意見が匿名情報であること、これは問題がアカデミックな問題であるよりも政治的な問題であることを示唆する。ところで、歴史民俗博物館の研究者は歴史、考古、民俗に分かれているが、歴史系の研究者で現代史専攻の人は1人だけであり、その人の研究対象も消費者運動と農村社会の変容で、「沖縄戦」は専門の外。ここで釈明が載っている館長の平川南氏は古代史専攻*1。
歴博「現代」、沖縄戦・原爆の不備指摘で難航16日にオープンが予定されている国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の新常設展示室「現代」について、沖縄戦や原爆投下に関する展示内容の不備を指摘する声が関係者から相次ぎ、準備が大幅に遅れている。
概要を発表する記者会見も「準備不足」を理由に、当初の2日から8日に延期された。国立の歴史博物館が初めて昭和戦争の歴史解釈に挑む“戦争展示”として注目されているが、多難なスタートとなりそうだ。
1983年に開館した同館は原始・古代から近代までの五つの展示室を公開。今月、オープンする第6展示室「現代」は、1930〜70年代までが対象だが、この間の昭和戦争期については多様な歴史解釈があり、難しい展示になることは当初から予想されていた。2005年に館外の歴史学者ら十数人を加えた展示委員会を設け、助言を受ける形で準備を進めてきた。
沖縄戦と原爆投下を扱う「大量殺戮(さつりく)の時代」の展示は当初、予定になかったが、途中で盛り込むことが決まった。ところが、最終校正の段階で、沖縄戦の「集団自決」の解説に、軍人からの指示や命令などが住民の意思決定を左右したとする記述があり、委員会内で変更を求める意見が出た。このほか、艦砲射撃の説明に事実誤認が指摘されるなど、修正に時間が取られ、準備が大幅に遅れた。このため、一部の関係者は「細心の注意が払われるべき解説の文章が練られておらず、あまりにずさん。当時の実物資料も不足している」と批判している。
平川南館長の話「膨大な情報量を処理するので、ぎりぎりまで慎重に細部を詰めて公開したい。不備を前提とするわけではないが、公開後も改善すべき点があれば改善する」
(2010年3月7日17時49分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100307-OYT1T00245.htm
まあ、「軍関与」という言葉はなくとも、「強いられた」という表現があれば、誰が強いたのかということが問題となり、その誰が誰なのかを想像するのはそれほど難しくないということになるだろうか。
さて、『琉球新報』の記事のタイトルにある「国立民博」という言葉にはちょっと驚いた。佐倉にある国立歴史民俗博物館はレキミンパク(歴民博)と呼ばれることが多く、正式の略称は歴博で、URLもhttp://www.rekihaku.ac.jp/となっている。「国立民博」という言葉からは、どうしても大阪千里にある国立民族学博物館(民博)*2の方を思い出してしまう。最初読んだとき、ミンパクで「沖縄戦」の展示をやるんだ! と一瞬吃驚したということはある。