エロ本と国会図書館

木川田朱美、辻慶太「国立国会図書館における成人向け出版物の納本状況」2008年度日本図書館情報学会春季研究集会、2008
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/102773/1/2008%E5%9B%B3%E6%83%85%E5%AD%A6%E4%BC%9A.pdf
Akemi KIKAWADA, Keita TSUJI “DOES THE NATIONAL DIET LIBRARY HAVE PORNOGRAPHIC BOOKS?” Asia-Pacific Conference on Library & Information Education & Practice, 2009
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/102245/1/A-LIEP_2009-trackB.pdf
(Via http://slashdot.jp/~route127/journal/494473


日本の国会図書館に対する「成人向け出版物」の納本率が極度に低いという話。「成人向け以外の出版物では未納本率はおおむね10 %にとどまるのに対し成人向け出版物未納本は実に80 %にのぼる」(2008, p.2)。比較対象の仏蘭西国立図書館(Biblioth`eque Nationale de France)の未納本率は12%。その理由として挙げられているのは、エロ本は「取次」以外のルートで流通しているものが多いこと。さらに、「児童ポルノ」規制強化の流れとともに、「児童ポルノ」の疑いがある本については国会図書館側で「積極的な納本督促を行わなくなった」(p.3)。また、松文館は木川田たちの調査に対して、「国家の図書館に蔵書のあるものは、歴史的に遡っても、体制を維持するうえで、心配のないものとの判断によるもので、むしろ、蔵書のない文献のほうが、存在価値があるのではないかと思われます」(p.4)とコメントしており、その「未納本」は積極的な〈拒否〉の意味合いを有している。
また、戦前における「検閲」としての「納本制度」;


第2 次世界大戦前の日本では,主として検閲のために内務省への納本義務が定められていた。そこで納本され,図書館の蔵書として問題がないと考えられた出版物は,大日本帝国図書館ないしその全身(sic.)の東京図書館へ納入され一般への利用に供されていた。また,大日本帝国図書館は蔵書を甲部図書,乙部図書,丙部図書に分類していた。そこで甲部図書とされたもの以外のすべての図書を利用者に供さず,丙部図書に至っては1 年で廃棄していた。乙部図書は「従来小説中,猥褻ノ甚ダシキモノ」とされ,1895 年には蔵書全体の55 %を占めていたのである。(ibid.)