ダーレンドルフ『政治・社会論集』

政治・社会論集―重要論文選

政治・社会論集―重要論文選

著者のラルフ・ダーレンドルフが死去*1する数日前にこの本を読了していた。以前にも、この本には言及していることもあり*2、ここでは目次を列挙し、それから短いコメントをランダムに書き連ねるに止める。


編者まえがき
凡例


I 社会紛争の理論に向けて
II ナチス・ドイツと社会革命
III ライフ・チャンス
IV 自由主義
V 社会民主主義的合意の終焉
VI 不平等、希望、進歩
VII 道徳、制度、公民社会


ダーレンドルフの政治・社会理論――解説(加藤秀治郎、檜山雅人)


ダーレンドルフ経歴
ダーレンドルフ主要著作目録
原典一覧

ナチス・ドイツと社会革命」はこの中ではいちばん衝撃的なテクストかも知れない。ナチスがその暴力によって独逸の「権威主義的な社会的基盤」を破壊し、戦後独逸において自由主義が展開する前提を逆説的につくりだしたことを論じる。
ダーレンドルフは、古典的な自由主義者として、〈進歩主義〉を堅持していたといえるだろう。「社会民主主義的合意の終焉」では、「時勢逆転派trend reversers」とエコロジストに同時に罵倒を浴びせている。「彼らは、歴史の歯車を逆転させようとし、それにともなう犠牲や将来のことについては無頓着なまま、現行制度を廃止するのを(あるいは廃止されるのを)望み、異なる世界、質的に別なものを夢みている人々である」(pp.125-126)。「時勢逆転派」は世間で新保守主義と呼ばれている潮流に対応するといえるだろう。曰く、「この立場によれば、必要なのは「あえてさらに民主主義を推進」することではなく、国や組織や家庭での失われた権威を再建するということである」(p.126)。また、この立場では「人生の意味を曖昧に語ることで政治権力欲を神秘化すること」(ibid.)もなされる。しかし、その一方で、「新しい自由とは、資本主義的であれ社会主義的であれ、〈量的拡大を志向する社会〉の呪縛からの自由なのであり、従って、変化した「生産関係」の中で、個人的生活の質をより良きものにする自由である」(「自由主義」、p.109)とも論じられる。
ダーレンドルフにとって、「ライフ・チャンス」を構成する二大要素は、(屡々矛盾的な関係にある)「オプション」と「リガーチャー」であるが、これはアマルティア・センのケイパビリティ論*3との関係で、さらに検討されるべきものであろう。曰く、「(前略)選択肢が多ければ多いほど(あるいは多いと考えるだけでもいいのだが)、その人の可能性は大きく、ライフ・チャンスも大きい、という言い方も出てくるが、しかしながら、これはわれわれの考えている概念を、誤解しやすい形で要約したもの、いや全く誤った理解なのである」(「ライフ・チャンス」、p.79)。