槇原敬之が作って、SMAPが歌った「世界に一つだけの花」*1が「共産主義礼賛」の歌にされたり*2、「ネオリベ礼賛」の歌にされているらしい*3。また、http://d.hatena.ne.jp/muffdiving/20080701/1214900788によれば、この歌は浄土三部経とサン=テグジュペリの『星の王子様』にインスパイアされたものであるという。それはそれで興味深い。
この歌に不満があるとしたら、エロティシズムや残酷さがないことだろう。少し前に、「ハナは先端であり、人体の先端にあるのは鼻である。また、サク。咲は先、崎、岬であり、裂や割でもある」と書いたことがある*4。さらに、特に桜の花は死体と結びついている。また、花は(男のであれ女のであれ)性器であるが、このことはたんに植物学的な知識であるだけでなく、例えばジョージア・オキーフの絵に魅了されたことがある方なら、感覚的に納得していただけるだろう。多分、この歌の欠点はそうしたセックスや暴力や死を抑圧しているということなのだろう。さらに、花は古くから詩歌それ自体の隠喩である――anthology、詞華集。勿論、詩歌もエロティシズムや残酷を引き受ける。因みに、花のさらに(時間的な)その先は果実。フルーツは〈齧る〉〈食べる〉という所作を通して、私たちとより直接的・身体的な関係を有している*5。また、腐る寸前がいちばん甘くて美味しいということで、あらゆる快楽の、さらには人間存在そのものの比喩になっている*6。
花といえば、藤圭子。「世界に一つだけの花」が批判されるとしたら、「夢は夜ひらく」と対比された場合だろう;
また、小池昌代の「げんじつ荘」*8から、「花屋」の場面を再度引用しておこう;
赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく
十五 十六 十七と
私の人生 暗かった
過去はどんなに 暗くとも
夢は夜ひらく
昨日マー坊 今日トミー
明日はジョージか ケン坊か
恋ははかなく 過ぎて行き
夢は夜ひらく
夜咲くネオンは 嘘(うそ)の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴(さかな)に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく
前を見るよな 柄じゃない
うしろ向くよな 柄じゃない
よそ見してたら 泣きを見た
夢は夜ひらく
一から十まで 馬鹿でした
馬鹿にゃ未練は ないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく
夢は夜ひらく
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/keikonoyumewa.html *7
店頭には、花屋にはどことなく不釣合いな感じのおじさんがいて、いらっしゃい、としぶい声をかけてくれた。がっしりした骨太の初老の男性である。袖をまくりあげたたくましい腕と手が、チューリップや薔薇を、バケツからついと抜いたり、束ねたりしている。壊れ物を扱うような丁寧な手つきが、妙になまめかしく目にうつる。おじさんの無骨な手が添えられた花々は、なぜかみだらに、なまめいて見えた。(p.83)
- 作者: 小池昌代
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*1:「ひとつ」じゃなくて「一つ」と漢字表記するのが正しいのですね。
*2:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1414083494
*3:http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080701/1214872758
*4:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080422/1208856877
*5:勿論、或る種の花の蜜を吸うのは大好きだが。
*6:やはり、”Eat the Music”をつくったケイト・ブッシュはえらいということになる。
*7:http://blogs.yahoo.co.jp/akasilova/23300050.htmlには三上寛ヴァージョンの歌詞あり。