http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130821/1377045464に関連して、『読売』の記事;
2007年の時点での中国のカリキュラムにおいて、小学校卒業までに習得すべき漢字数は2500、(日本の中学校に相当する)初級中学卒業までに習得すべき漢字数は3500だった。また中国政府(教育部)が一般的な事務労働を行うのに知っている必要があると認定していたのは4000字だった*1。
中国危機感、漢字「読めても書けない」若者急増
【瀋陽=蒔田一彦】漢字の国・中国で、若者を中心に正しい漢字を書けない人が増えている。
パソコンや携帯機器の急速な普及で手書きの機会が減っていることが背景にあり、危機感を抱いた当局は、漢字への関心アップに乗り出している。
「88、3Q」
中国の女子中学生の携帯メールにあふれる若者言葉の一つだ。「バイバイ、サンキュー」の意味。こうした数字や英語を使った省略語や外来語が多用される一方、「読めるけれど書けない」漢字が増えている。
河南省のテレビ局が7月から全国放送を始めた番組「漢字英雄」。小中高校生が漢字の書き取りを競う。答えに窮した子供は電話で親たちに教えてもらうが、「脱臼(中国語でも脱臼)」など、普段よく使う漢字でも大人たちの誤答が続出。現代中国人の「書く能力」の低下を浮き彫りにした。
これを受け、国営メディアは「漢字は中国文化の核心。我々は後世に継承しなければならない」(新華社通信)などと、国民に漢字学習を促す論調を展開。8月には中国中央テレビも、学生漢字チャンピオンを決める番組を始めた。ある大学関係者は、「学生向け漢字コンテストを開くよう政府から要請があり、準備に追われている」と明かす。
「漢字英雄」は開始以来、視聴率で全国トップ10入りを続けている。番組と同じゲームが楽しめるアプリもダウンロード数は80万件に達した。書店には漢字学習のコーナーが設けられ、書道教室の受講者が増えるなど、ブームを起こしている。
中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字で、ひらがな、カタカナも使う日本の常用漢字の約3倍。同じ発音の字も多く、誤字が生まれやすい。その上、幼少期からパソコンや携帯電話で変換された候補の中から選ぶことに慣れた結果、「国民の書く能力が低下している」(2011年の教育省の報告書)現状がある。
日中の漢字文化に詳しい京都外国語大の彭飛教授は、「漢字の読み書き能力の低下について、中国の危機感は強い。教育界を巻き込んだ長期的な取り組みに広がる可能性がある」と指摘している。
(2013年8月21日09時16分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130821-OYT1T00207.htm
「読み書き能力の低下」ということだけど、どの時代や世代と比べて「低下」しているというのだろうか。例えば50代の中国人は子ども時代に文化大革命を経験し、したがって初等教育をまともに受けていない世代であり、上からも下からも無教養な世代であると見なされている。また時代を遡れば、文字文化から疎外された文盲の割合が高くなるのも確実である。香港や台湾と比べれば遅々としているものの、建国後、識字率は着実に向上しているのだ。
ところで、1951年に毛沢東は将来漢字を廃止し、中国語を表音文字(羅馬字)化すべしという「指示」を出した。つまり漢字の廃止は中国の「国是」だったわけである。今の中国政府は勿論漢字廃止を妄想しているわけではない。しかし、他方で、中国政府が1951年の「指示」を否定したり撤回したりしていないということも事実なのだ(Cf. 阿辻哲次『近くて遠い中国語』、pp.104-105)*2。自分の後輩たちが「漢字の読み書き能力の低下」を嘆いていることについて、毛沢東はどう思っているのだろうか。
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