『体の贈り物』

レベッカ・ブラウン『体の贈り物』(柴田元幸訳)マガジンハウス、2001 

体の贈り物

体の贈り物


これはかなり以前に近所のブックオフで買って、そのまま放っておいたもの。買った動機は小池アミイゴという人による表紙のイラストレーションがお洒落だったということ。つまりジャケ買いであり、それと柴田元幸訳ならば悪い小説ではなかろうと思った。レベッカ・ブラウンの小説は、これ以外では、『夜の姉妹団』というこれまた柴田氏が編集したアンソロジーに収められている「結婚の悦び」という短編しか読んだことはなかった。

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

これは全て"The Gift of"から始まるタイトルの11の短編からなる連作で、AIDS患者のケアをする「ホームケア・ワーカー」である「私」を主人公=語り手とする*1。描かれるのは「私」と「利用者」、同僚、上司との交流。といっても、感動を押しつけるような暑苦しさがあるわけではない。とはいえ、本が後半に進むに連れて、徐々に〈死〉の影が濃くなってくるのだが。柴田氏が「訳者あとがき」でいうように、「作者は、エイズ、闘病、死といったテーマにいとも簡単に付着してしまう余計な「物語」をいっさい排して、いわば現場の実感を、極力ストレートに伝えている」(p.203)。それを支えているのは、多分水彩画のような淡いタッチの描写なのだろう。だから、例えば描写よりも説明が目立ってしまっている「希望の贈り物」は小説としての面白さが少ないともいえる。この連作短編集の説明ならざる描写で、最も目立ち読者の感覚に迫ってくるのは何かといえば、〈におい〉である。その多くはAIDS患者である「利用者」たちの生の痕跡としてのにおい。その意味で、この本は嗅覚小説といえるかもしれない*2。ところで、介護という仕事は個人の最もプライヴェートな部分にまで踏み込む。だから、〈におい〉が前面に登場するのは当然なのかも知れない。しかし、その自明性に留まっているなら、このような描写は生まれない。(性的ではないが)エロティックでもある〈におい〉をなさしめたのは、他者の身体に対する躊躇い或いは慎みといったようなものではなかったかとも思った。

*1:「私」のジェンダーについては今もってわからない。

*2:最も端的なのは「汗の贈り物」。