或いは甲信とか

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180121/1516502805に対して。
ペドロ&カプリシャスの「別れの朝」を巡って。


白クマ 2018/01/21 15:44

>「ふたり」が住んでいたのは、「汽車」が発着するような田舎であって、国電沿線や私鉄沿線のような東京郊外ではなかった

この唄から私が連想したのは、同じ田舎でもどちらかというと外国の、例えば欧州の田舎というか地方都市、ビジュアル的には「妖怪人間ベム」や「ルパン3世(第一シリーズ)」や「新造人間キャシャーン」で描かれたような街を思い浮かべていました。
それは恐らく、あの唄のボーカル(確かまだ高橋真梨子ではなかった筈)が醸し出す、なんというかやや中世的な雰囲気が大きいのでしょうが、もう一つはそのグループ名にも少し影響されているかな、とも考えております。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180121/1516502805#c1516517097

まあ元々墺太利人/瑞西人の曲なので、「欧州の田舎」だと言われれば、まあそうでしょうねと納得してしまいます。なかにし礼の日本語詞がどれだけ元の独逸語の歌詞に忠実なのかは知りませんが。歌詞を読み直して、またこのコメントを読んで、いい加減なことを考えたのですが、この歌は甲信(長野・山梨)っぽいなと思いました。日本でヨーロッパっぽい場所はどこかというと、やはり長野・山梨じゃないかなと思ってしまいます。日本アルプスもありますし。或いは、軽井沢や野尻湖清里*1や。甲信性というと、「アンパンマン」世界*2。アニメの『アンパンマン』の背景では、いちばん彼方に万年雪の高山が描かれています。それで、『アンパンマン』の舞台は何処なのか、アルプスの麓のヨーロッパなのかな? とも一瞬思ったのですけど、でもみんな日本語を喋っているようなので、舞台はヨーロッパっぽい日本、日本アルプスの麓の長野・山梨じゃないかなと思ったのですが、如何でしょうか。
「別れの朝」に話を戻すと、この歌はどういうストーリーを前提にしているのか。「別れ」の動機は何なのか。私が勝手に推測したのは、女(「わたし」)と暮らすために家出した男(「あなた」)は何らかの事情のために元々の妻子のところに帰る、ということです。そこで思い出したのは是枝裕和の『海街diary』。この映画では、女と一緒に家出した父親は元の家に帰ることはなく、その代わりに腹違いの妹(広瀬すず)がやって来るわけですが。映画では、父が娘に看取られて死んだのは山形県の何処かの温泉街という設定になっていますが、実際に撮影されたのは山形県ではなく岩手県花巻温泉だといいます*3。まあ、それなので、ヨーロッパっぽさは消えてしまいますが、「別れの朝」の舞台が山形や岩手でもいいかなと思ったのです。

巻き込む夢

この夢を見たのは2週間くらい前か。
私はペンで文章を書いているのだが、書いたそばから言葉が物のイメージになって、シャボン玉みたいに宙を漂い、やがて消えてしまう。それを防ぐために、私はイメージになった言葉を、宙に漂わないうちに巻物に巻き込んでいる。
この夢を見た2日くらい前に、私は息子にユーフラテス『コんガらガっち ぬきあしさしあし すすめ!の本 』という絵本を読んでやっていたのだった。この絵本では、主人公「いぐら」が忍者になって盗まれた巻物を取り返す。巻物の夢を見たのはそのせい?
「いぐら」はもぐらと海豚がこんがらがってできた生物。でも、こんがらがっているのは形態だけで、生態には及んでいないのが物足りない。「いぐら」は地下に棲んでいるわけでもないし、海に棲んでいるわけでもない。

コんガらガっち ぬきあしさしあし すすめ!の本

コんガらガっち ぬきあしさしあし すすめ!の本

西西

とはいっても香港の作家*1ではない。

朝日新聞』の記事;


評論家の西部邁さんが死去 多摩川で自殺か
2018年1月21日20時20分


 21日午前6時40分ごろ、東京都大田区田園調布5丁目の多摩川で、評論家の西部(にしべ)邁(すすむ)さん(78)*2の長男から、「父親が川に入った」と110番通報があった。警視庁と消防が男性を救出したが、約2時間後に搬送先の病院で死亡が確認された。

 田園調布署によると、男性は西部さんだった。同日未明に家族が「父親がいない」と110番通報していた。行方を捜しているなかで、多摩川で長男が見つけ、通報したという。河川敷に遺書が残されていたといい、署は自殺の可能性があるとみている。

 西部さんは1939年、北海道生まれ。東大経済学部卒、同大大学院修士課程修了。元東大教授。60年安保闘争の際には全学連の指導層におり、後に保守派の論客として活躍した。経済学研究でスタートし、大衆化や米国流の経済思想を鋭く批判。「ソシオ・エコノミックス」「大衆への反逆」「六〇年安保」などの著書で注目された。88年には教員人事の進め方を不満として東大教授を辞職。94年、保守派を自任する月刊オピニオン誌「発言者」を創刊し、主幹を務めた。80年代後半以降は討論番組「朝まで生テレビ!」のメンバーとしても活躍。柔らかな表情から鋭い批判の言葉を繰り出し、人気を呼んだ。

 歴史に根ざした伝統を重んじ、人間の理性を過信しないことが保守思想の特徴であると訴え、幅広い人々に影響を与えた。戦後日本の保守は本当に保守の名に値するかという問いを発し続け、対米追従的な「親米保守」を鋭く批判した。

 今世紀初頭、9・11同時多発テロを経験した米国がイラク戦争になだれ込んでいく際には、保守派の立場から反対の論陣を張った。日本の保守政権が米国追認に傾く中、「侵略であると断じざるを得ない」(本紙2004年)と語った。
https://www.asahi.com/articles/ASL1P55P9L1PUTIL00Z.html


田原さん「強烈な個性、失われ残念」 西部邁さん死去
2018年1月21日23時15分



<ジャーナリスト田原総一朗さんの話>

 「朝まで生テレビ!」に出演をお願いした時、「悪役になることを承知で出演してくれないか」と頼んだ。かつては学者や評論家というと、左翼なのが当たり前。それでも出演してくれ、ラジカルなことを率直に語ってくれた。民主主義は、ポピュリズムを生み、ファシズムにつながるから危険である、といったこともすでに語っていた。

評論家の西部邁さんが死去 多摩川で自殺か
 僕は彼とは意見は違ったけれども人間として信頼していた。決して何が起きても時流におもねらない。そういう人物でした。

 昨年秋にラジオ放送で会った時も、今の日本のあり方を痛烈に批判していた。彼のような強烈な個性が(今の日本社会から)失われてしまったことを残念に思う。

     ◇

<西部さんと親交が深かった中島岳志東京工業大学教授(近代思想史)の話>

 文芸評論家がおもに担ってきた戦後保守の中で、著作「ソシオ・エコノミックス」(1975年)などで社会科学的な思考を導入して保守思想を展開した突出した思想家だった。人間の合理性を疑いながらも、徹底して合理的に考え続け、保守とリベラルとは相互補完的な関係にあると早くから考えていた。

 「思想家は時評から退いてはならない」という言葉を何度も聞かされた。テレビなどメディアへの露出もその信念に基づくものだったと思う。明治時代の中江兆民福沢諭吉らのように、思想とは、今起きていることにどう切り込むかによって生まれるという強い信念を最後まで持っていた。死をとても残念に思う。
https://www.asahi.com/articles/ASL1P7HCXL1PUCVL00F.html

西部さん、2013年にお連れ合いを亡くしていたんだね*3。妻に先立たれ、その後を追うというのは、江藤淳の反復?
See also


西部邁自殺」http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20180122/1516572854
「評論家の西部邁さん死亡 自殺か 現場に遺書」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180121/k10011296571000.html


こちらは、西部邁とは対極的な政治的スタンスの人だけど。
朝日新聞』;


西原博史早大教授、中央道ではねられ死亡 事故で車外に
2018年1月22日09時26分


 22日午前0時10分ごろ、東京都三鷹市新川4丁目の中央道上り線で、早稲田大学社会科学総合学術院教授の西原博史さん(59)*4=中野区鷺宮6丁目=がトラックにはねられた。西原さんは全身を強く打ち、搬送先の病院で死亡した。西原さんは単独事故を起こした後、車外に出て走行車線上ではねられたという。

 警視庁はトラックを運転していた運送会社員の高原充宏容疑者(50)=八王子市滝山町1丁目=を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕し、容疑を同致死に切り替えて調べている。「停止している車に気を取られた」と述べているという。

 高速隊によると、現場は片側2車線。西原さんは約10分前、乗用車で中央分離帯に衝突する単独事故を起こし、追い越し車線に停止。事故を通報した後続車の男性とともに中央分離帯に避難していたが、何らかの理由で走行車線まで出たという。

 西原さんは憲法学が専門で、思想・良心の自由に関する論考を多数発表。教育現場での「君が代」斉唱問題などについても積極的に発言してきた。著書に「良心の自由と子どもたち」など。父親は刑法学者の西原春夫・元早大総長。
https://www.asahi.com/articles/ASL1Q2TJTL1QUTIL008.html

See also


「早稲田大教授が中央道ではねられ死亡 事故で車外に出た直後」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180122/k10011296891000.html

丸谷才一『持ち重りする薔薇の花』

持ち重りする薔薇の花 (新潮文庫)

持ち重りする薔薇の花 (新潮文庫)

丸谷才一*1の遺作『持ち重りする薔薇の花』を数日前に読了。
裏表紙の(版元による)商品紹介に曰く、


薔薇の花束を四人で持つのは。面倒だぞ、厄介だぞ、持ちにくいぞ――世界的弦楽四重奏団(クヮルテット)の愛憎半ばする人間模様を、彼らの友人である財界の重鎮が語りはじめる。互いの妻との恋愛あり、嫉妬あり、裏切りあり……。クヮルテットが奏でる深く美しい音楽の裏側で起きるさまざまなできごと、人生の味わいを、細密なディテールで描き尽くした著者最後の長編小説。
ようするにこういうことだ。後に「経団連会長」にもなる「梶井」は某財閥系商社の米国法人社長時代の1970年代の紐育で、ジュリアードを出て クヮルテットを結成しようとしていた若い日本人の音楽家たちと偶然に知り合い、「ブルー・フジ・クヮルテット」と名付けられたクヮルテットのパトロン的存在となる。その「ブルー・フジ」の下ネタを含むエピソードを、関係者が生きているうちは公開しないという条件の下で、この小説の語り手でもある旧知のジャーナリスト「野原」に語る。上掲の商品紹介では言及されていないけれど、この小説では、「ブルー・フジ」のメンバーの話だけでなく、野原や梶井の人生にもかなりの紙数が割かれている。このことによって、この小説は、ミュージシャンたちの人間関係を超えた、より一般的な主題を提示することが可能になっているといえる。それを(この小説で使用されている)単語1つで表せば、「同僚」ということになる。私たちの多くは、好きか嫌いかに関わらず「同僚」と共にいるという仕方で社会のメンバーとならざるを得ないということ。
梶井の語り;

彼の会社の前身である旧財閥会社の、戦前の大物がかう教えたといふ。
「会社員といふのは、会社のためといふ名目で不本意なことをしなければならないことがあるのを除けば、世間体もいいし、小ぎれいだし、収入もまあまあだし、ずいぶんよい職業だが、最大の難点はいやな同僚としょつちゆう顔を合わせなければならないことだ。自分はこのことでさんざん苦労したあげく、かう思ふことにして乗り切つてきた。仕事はおもしろいから趣味としてやつてゐるのである。そして会社から貰ふ給料はすべて、いやな同僚と顔を合わせることへの慰謝料として払はれ、受取つているのである。さう思つてしのいできた……」
野原は笑つて言つた。
「なんだか、恰好のつけすぎみたいな気がしますけど」(p.204)
また、湯川豊*2のインタヴューに答えて、

小説家という職業について考えてみたんですよ。小説家が他の職業ともっとも違うところはどこか。それはいやな相手とつきあう必要がないということじゃないか。ふつうの職業では、仕事に愛着や執着があっても、同僚というのが大きな問題らしい。ところが小説家には同僚がいない。まったく一人きりの職業。運がいいというのか、孤独だというのか。とにかくめずらしい商売なんです。
日本の小説家が書く小説が、どうしてあんなに社会性がなくなるのか、理由の一つはそこにあると思うんです。社会と関係のない自己探求なるものにのめりこんだ。まあ、同僚がいないのはいっぽうで寂しいから、文壇というものを無理矢理に自分たちでつくりあげたんですが、これは社会の原風景にはならない、特殊な共同体というものでした。
そして小説では、何をやって暮らしを立てているのかわからない主人公を描いた。谷崎潤一郎吉行淳之介もその手で書きました。それじゃあダメなんで、作中人物はきちんとした職業をもたなければいけないというのが、初めから僕の基本方針だったのです。(湯川豊「解説」、pp.223-224)

社会生活では、職業のなかで同僚を強く意識する。いやだからといって、仕事をやめるわけにはいかない縛りがある。それが典型的にあるような職業は何だろうと長いこと考えていて、「あっ、カルテットのメンバーにすればいいわけだ」と思いついたんです。もちろん以前から室内楽が好きでしたけどね。(pp.224-225)
この小説でもベートーヴェン弦楽四重奏はそれなりの役割を担う。そのベートーヴェンが大々的にフィーチャーされた映画として、ゴダールの『カルメンという名の女』*3をマークしておく。
カルメンという名の女 [DVD]

カルメンという名の女 [DVD]

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061007/1160211636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070112/1168605677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070127/1169915568 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070507/1178561806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070509/1178680441 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071024/1193204480 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080910/1221023275 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080924/1222282860 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090301/1235918301 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090706/1246906032 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090711/1247338782 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101022/1287730718 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110129/1296321747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110218/1298037284 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120503/1336015456 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120528/1338142357 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20121015/1350274808 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130621/1371749803 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130630/1372531097 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130712/1373644661 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130901/1377964747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131007/1381167208 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131024/1382624831 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140806/1407294791 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141019/1413647418 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141226/1419566569 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170321/1490115049 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170405/1491409629 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171012/1507781227 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171019/1508434401 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20171031/1509460138

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130325/1364141796 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130406/1365204988 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130408/1365430783

*3:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070515/1179237549 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080220/1203509593 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080225/1203917434 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100316/1268711438 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141024/1414174357 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151211/1449811350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20151229/1451412427 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161111/1478843587 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170511/1494459421

昔の慶應なら

山本幸三はどう思うことやら*1


小手川太朗「ラップの原点わかれば満点 慶大2単位Zeebra直伝」https://www.asahi.com/articles/ASKDT5789KDTOIPE02H.html
神庭亮介*2「ラッパー「母校」に帰る Zeebraが慶応で語ったこと」https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/professor-zeebra


既に昨年の記事ではあるけど。
慶應義塾大学文学部におけるZeebra*3によるヒップホップ(ラップ)講義(「現代芸術2 ヒップホップ文化とラップの構造」)についての記事。
「ヒップホップ」とか「ラップ」というと新奇なもののように思って吃驚するかも知れないけれど、ようするに韻を踏んだ言葉、韻文、狭義における詩的言語についての講義ということになる。昔の慶應だったら、西脇順三郎*4による英詩講義という感じになるのだろうか。